ローランド VR-3EX〜小規模配信に最適なAVミクサー
ローランドのVR-3EXは、同社製のVR-3の後継機となるAVミクサーであり、同じく機種名末尾に「EX」を付加された同社製ビデオミクサーV-4EXと同様にHDMIの入力にも対応し、機能も拡張されたアップデート版である。オーディオ、ビデオをオールインワンでコントロールできるこの機材、今回は評価機をお借りすることができたので、実際のストリーミング配信環境に組み込んでみて、その観点からの使用感などを探ってみた。
VR-3EXの概要
VR-3EXの映像入出力は、それぞれ最大で9入力4出力で、先代VR-3と比較して特に入力系統が大幅に拡張されている。パネルレイアウトは基本的に「VR-3」のものを踏襲しつつも、オーディオセクション・ビデオセクションともに拡大されている。そのため、筐体もVR-3と比較して横方向に大きくなっているが、入力系統と機能が拡張されていることを考えれば、非常にコンパクトにまとまっている印象だ。
本体に備えられているモニター画面はタッチパネルとなっており、設定項目の選択なども直感的に操作できる。特にPinPエフェクトの調整などは、タッチ操作によって素早く調整が可能だ。
まず映像周りだが、HDMIの入力が新たに4系統拡張された点がVR-3との最大の相違点だ。映像内部処理はNTSCで480/59.94p、HDMI入力4系統のうち1系統がスケーラー付きで1080pの入力にも対応、それ以外の3系統は480pの対応となる。こうした点は、同社製ビデオミクサー製品のV-4EXの仕様とほぼ共通している。
9系統の入力だが、ソース選択のボタンは4つとなっており、それぞれのボタンに映像ソースを割り当てる必要がある。この設定画面のデザインもV-4EXと近似しており、どの端子に信号がきているかをインジケーター表示してくれるなど、わかりやすさに配慮されたデザインとなっている。
また、著作権保護(HDCP)された映像の入力にも対応している。しかし、HDCP映像入力を有効としている場合、出力はHDMIのみ有効となる点に注意が必要だ。
オーディオ周りは、XLRの4系統と、RCA、ステレオミニの入力それぞれにフェーダーが用意されている。これに加えて、HDMIエンベデッドオーディオの調整ツマミが4つ、VR-3EXの内蔵ステレオマイクの調整ツマミが1つ付加されており、運用する人間は最大で11の音声ソースを扱うことになる。
内蔵ステレオマイクは本製品の新しい試みであり、筐体の左右隅に配置されている。活用方としては、簡易なオーディエンス用マイクとして運用したり、あるいは配信スタッフが声のみの出演を行う、といった活用法が考えられる。運用する人間次第で面白い使い方ができるだろう。
また、映像と音声を同時に扱う関係上、どうしてもリップシンクしない場面が出てくることが予想されるが、そうしたケースのために各入力ソースの遅延時間をそれぞれ設定することも可能だ。
出力系統においては、USB・AV出力、コンポジット出力とHDMI出力の3系統の他に、アナログRGB/コンポーネント出力が用意されている。このため、ストリーミング配信の現場だけでなく、プレゼンテーションの現場などでも、本製品は活躍できることが想定される。
たとえば、一昔前のプロジェクタのなかには、D-sub15ピンの入力端子しか存在しないものも存在する。そうした環境においてもリッチなコンテンツのプレゼンテーションを行いたい、という需要にも応えられるだろう。
現場運用に対する配慮が光る
今回はこのVR-3EXを、弊社内配信スタジオのスイッチャー部のみを置換する形で組み込み、ストリーミング配信に使用する観点からテストを行った。
室内での配信だが、映像ソースがHDMIとコンポジットが混在している環境である。しかしながらVR-3EXの入力系統の柔軟性もあり、素早く配信環境が構築できた。
事前に一度仮組みをしてはいるものの、スケジュールの兼ね合いで約10分間での配線となったが、こうした際に煩わしい変換などをせずに環境構築できる点は、運用面では非常に心強い。
出力端子からの映像は、通常のスイッチアウトのメイン出力以外にも、入力ソース確認用の4分割画面とすることもできる。このため、機材の総数が不足気味な場合や、コンポジット入力のみ対応しているようなレガシーな機材を利用して配信環境を構築する場合でも、柔軟に対応が可能だ。今回は、通常の配信スタジオの系統に組み入れる関係上、最終出力をコンポジットとし、プレビューモニター代用でUSB接続したノートPCを使用することとした。
しかしながら、本体に備えられているモニターも十分に視認性が高く、入力映像の内容確認程度の使用であれば、十分にプレビューモニターとして使用できると感じた。
配信のための機材を設置するスペースが狭小な場合などは、VR-3EX本体と配信用ノートPCのみといった機動性重視の機材構成でも、十分使用に耐えうるのではないだろうか。実際、今回の検証の際にも、配信中は本体側のプレビューモニタを見ている場面の方が多かった。
PC側では、ローランドのサイトにて配布されている「Video Capture VR」を使用した。 これは画面のプレビュー以外にも、USB出力の映像をキャプチャ・保存出力することが可能な純正のソフトウェアである。「VR-3EX」を運用する際は、是非とも活用したい。
実際の使用においては、非常にわかりやすい操作レイアウトにも助けられ、スイッチングミスなどもなく運用することができた。
個人的に好印象だったのは、まずキーイングのオン/オフのために大型のボタンが専用に用意されている点だ。操作しやすい箇所にこうしたボタンがあることは、テロップなどの表示や入れ替えを素早く行う必要のある現場では非常に運用しやすい。また、トランジション時間調整用にツマミが新しく用意されている点も、現場運用を考慮した良い点だと感じた。こうした設定を、わざわざメニューの深い階層にまで入って設定を変更しているような余裕は、いざ放送が始まってしまうと無いことが多い。その点、物理スイッチで操作できるようレイアウトされている点は、現場運用の実際に配慮した良い設計だと感じた。
また、音声モニター出力が標準とミニジャックの2系統用意されていることも嬉しい点だ。ヘッドホン・イヤホンの端子どちらであろうと変換プラグを噛ませなくても使用できるほか、配信スタッフが複数名でモニターする際にも、わざわざ分岐などを噛ませなくて済む。音のメーカーであるローランドならではの配慮だろう。
少人数での配信に最適
今回検証した環境は、スタジオに据え付けての配信であったが、VR-3EXに最も適した活躍の場は、「現場に出張しての配信業務」や「演者が配信スタッフを兼ねる」といったシチュエーションだろう。VR-3EXは一体型のAVミクサーであるがゆえ、機材構成が最小で済む。こうした点は、時間・人的余裕のない出張での配信現場には最適だ。
小規模での配信業務から趣味での配信、あるいはプレゼンテーションの現場まで、様々な場面での活用が「VR-3EX」には期待できるだろう。
- 映像処理:4:2:2(Y/Pb/Pr)、8ビット(内部処理:NTSC設定時は480/59.94p、PAL設定時は576/50p)
- 音声処理:24ビット/48kHz
- 外形寸法:幅345×高さ80×奥行203mm
- 質量:2.3kg
- 価格:¥19万8000(税別)
- 発売:2014年2月10日
- 問い合わせ先:ローランド・お客様相談センター TEL 050-3101-2555
- URL:http://www.roland.co.jp/products/jp/VR-3EX/