ファイルベース時代に学ぶ ビデオ技術(基礎編)第2回 その3: 映像・音声信号の種類と伝送
ケーブルに使用される端子の種類
〜じぇじぇじぇ、よりジェージェーが大切
信号を確実に伝送するためには、ケーブルや端子に対する知識も必要です。ここでは民生用、業務用映像機器で多用される基本的なケーブルと端子について説明します。
■民生用機器の端子
家庭用機器やそれに類する業務用機器のアナログ端子には、安価に製造できて抜き差しが容易なRCA端子が使用されます。機器側がメス端子、ケーブル側がオス端子となり、ケーブルには入力側、出力側の区別はありません。通常は映像用が黄色、音声の左右用が白色と赤色で塗り分けられていますので、オス-メスの色が一致するように接続しますが、白色の代わりに灰色が使われたりする例があるほか、モノラル音声端子に黒や白が使われている例、映像用も含めて全色黒く塗られている例なども見受けられますので、最終的には端子付近の文字表示を見て判断します。ステレオ音声(RCA端子の白と赤)を黒のモノラル端子に入出力する場合は、分岐用のプラグを介して接続できます(図1を参照)。
民生用のカメラでは、小型化のためカメラ側に特殊なミニプラグが付いており、専用ケーブルを使用する機種が多数あります。ストリーミング放送などで民生用のカメラを流用する場合には、ケーブルの延長接続が必要となりますので、片側がメスコネクター仕様になっているRCAの延長用ケーブルや、オスコネクター同士を接続できる中継ぎプラグなどを用意して対応します(図2参照)。
またSDの映像用にミニDIN型のS端子が搭載されている機器もあります。これは輝度信号と色信号を分離したまま、より高画質に伝送するためのもので、受け側の機器にも搭載されている場合は使用できますが、ピンが細く破損しやすいため、撮影現場での使用はトラブルの原因になりやすいといえます。
その他、音声用には卓上ミクサーに多いTRSフォンプラグや、小型の機器はミニプラグを使用するものもあります。いずれの場合もアナログ音声信号は互換性が高いので、変換プラグを介して接続可能です(図2参照)。
図2 映像制作に使用するケーブル、アダプター類。①〜⑤によく使われるケーブルを、⑥〜⑱に用意しておくと便利なプラグ類を示す。
①XLR(キャノン)ケーブルのオス側:通常もう片側はメスになっているため、アダプタを介さず延長接続が可能。アナログ用とデジタル用では特性インピーダンスが異なるため、共用は不可
②RCAケーブル:民生用機器でアナログ信号を伝送。コンポーネント用には緑赤青に塗り分けられたケーブルも存在する。短距離の接続が目的なので、音声用に塗られた端子を映像用に用いることも可能
③S映像ケーブル:NTSC信号を輝度と色(サブキャリア)を分離したまま伝送する。放送用機器には搭載されていない例が多く、あくまで民生用となる
④民生用D端子ケーブル:3本のアナログコンポーネント接続用ケーブルを1本にまとめた機能を持ち、映像のみを伝送するため、別途音声の接続が必要
⑤BNCケーブル:放送業務用の映像やデジタル音声用に幅広く使われる。1GHzを超えるHDデジタル映像用には、5C 以上で高性能なケーブルを使用しないと伝送距離を稼げない
⑥2本のRCAケーブルを1端子にまとめる特殊プラグ:モノラル音声入力しかない業務用モニタに民生機器からステレオ音声を入力するときに便利
⑦BNC用75Ω終端プラグ:モニタ類の接続の終端用に用意しておく
⑧RCA-RAC延長プラグ:RCAケーブルの延長用に使用
⑨RCA(メス−BNC(オス)変換プラグ:家庭用のRCAケーブルを業務用機器の映像端子に接続する際に使用する
⑩BNC(メス)−RCA(オス)変換プラグ:業務用機器から出力されたNTSC映像を民生用のテレビに表示する際に使用
⑪RCA(メス)−BNC(メス)プラグ:民生用カメラから出力されたNTSC映像信号をBNCケーブルを使って業務用スイッチャなどに入力する際に使用
⑫BNC(メス)−BNC(メス)プラグ:通称J-J(ジェージェー)と呼ばれ、BNCケーブル同士の延長接続に使用
⑬ステレオミニ−TRSフォン変換プラグ:ミニジャックしか持たない民生用機器のフォンジャックに、900STなどの業務用ヘッドフォンを挿すときに使用
⑭TRSフォン−ステレオミニ変換プラグ:業務用VTRやミキサのフォンジャックから民生用のイヤホンに音声を送るときに使用
⑮RCA−XLR(オス)変換プラグ:民生機器のRCA端子から業務用機器へアナログ音声ケーブルを接続する際に使用。音声レベルが低くなるため、直接の接続はお勧めできない
⑯XLR(メス)−RCA変換プラグ:業務用機器のアナログ音声を民生用機器に入力する際に使用。レベルオーバーとなるため、-10〜20dB程度のアッテネータ(減衰器)を挟むことが望ましい
⑰XLR(オス−オス)プラグ:XLRケーブルのメス→オス変換に使用
⑱XLR(メス−メス)プラグ:XLRケーブルのオス→メス変換に使用
■業務用機器の端子
これに対して業務用機器の映像端子には、アナログ・デジタルを問わず、通常BNC端子が使われます(図3)。製造には削り出しや鋳造が必要で高価になりますが、ケーブルを確実にロックできるため、不意の抜けや緩みを防げます。ケーブルは3m長、10m長、20m長などの出来合い品もありますが、50mの長距離を引き回したい場合や、常時接続でケーブルをぴったりの長さにしたい場合は、ケーブルと端子を別々に購入して現場で必要な長さに切り、カシメ工具を使用して組み立てることも多いです。こうした材料はカナレ(http://www.canare.co.jp/)などのメーカーから販売されています。
ケーブル選定の際、アナログ映像用には3Cや5Cという、型番にC(特性インピーダンス:75Ω)が付くものを使用し、D(特性インピーダンス:50Ω)が付くものは避けるようにします(※1)。数字はケーブルの太さを示し、これが大きいものほどしなやかさには欠けますが損失が少なく、長距離の伝送に適します。SDI信号用には、減衰が多い高周波帯域を使用することから、発泡絶縁体を使用して性能を高めた5CFBなどのケーブルを使用します。またBNCケーブルの延長には、通称J-Jと呼ばれる中継ぎプラグ(図2参照)がありますので、多くの現場で常備されています。
業務用映像機器の音声端子には、アナログ信号にはロック機構の付いたXLR端子(キャノン端子)が、デジタル信号(AES/EBU)にはXLR端子かBNC端子が使われます。XLR端子にはグランド線のほかに、信号を伝送するための線が2本あって平衡型と呼ばれ、同軸型のRCAケーブルやBNCケーブルよりノイズに強い性質があります。またRCAやBNCと異なり、オス端子で出してメス端子で受ける仕様(一部の機器では逆)となっていますので、ケーブルの方向性に注意し、短いオス-オス、メス-メスケーブルなども用意して、仕様が異なる機器同士の接続に対応します。
DVDプレーヤーなどの民生用機器から業務用のシステムへ音声を取り込みたい場合には、RCAとXLRの変換プラグを利用して接続することも可能です。ただしRCA端子から出力される音声信号のレベルは、XLR端子に流れる+4dBuの信号より10〜20dBほど低く、音が小さくなってしまいます。そのため多くの現場ではTASCAM社のLA-40MKⅢのようなラインコンバーターを使ってマッチングを図っています。
また物理的に接続可能だからといって、XLR出力のAES/EBUデジタル音声を、アナログ用のXLR-RCAプラグなどを介して強引に同軸のBNCケーブルに変換したりしてはいけません。この場合はトランスを内蔵した専用の変換プラグを介してBNCケーブルと接続し、マッチングを図ります(図4)。
- ※1 この型番は日本で慣習的に使われているもので、海外では通じませんし、ケーブルの特性も若干異なります。また国内のメーカーでも、この型番を使わないところがあります
ケーブル接続時の注意点
〜伝送距離と信頼性は反比例する
ケーブルはそれ自体が抵抗値をもっていますので、長くなればなるほど伝送される信号のレベルが低下し、最終的にはノイズレベルに埋もれて伝送不能となります。やむを得ず200m、300m、と引き回す場合は、間にケーブル補償器などを挟んで信号レベルの低下を防ぎます。
また屋外・屋内を問わず、撮影の現場では信号がこない、というトラブルが多発します。原因の多くは、
1)接続が間違っている
2)ケーブルが破損(断線)している
3)端子間の接触に問題がある
4)機器側が一時的にフリーズしている
に集約できます。
(1)の接続ミスについては、SDI信号で送っているのに、アナログ信号用の端子で受けている、などが考えられます。SDI信号の帯域は、アナログ信号の数10倍ありますので、このケースだとアナログの受け側回路にとってSDI信号はただの高周波のノイズとなり、モニター画面が砂の嵐になります。無信号状態とは異なりますので、他の原因は排除できます。信号に対する正しい知識をもつことで、こうした接続ミスに早期に気づけ、対応できるのです。
(2)の断線は外見からは発見しにくいです。応急的には、別のケーブルを使用してうまくいく場合は断線と判断し、予備のケーブルに切り替えます。現場に抵抗値を測定できるテスターを持ち込んでいれば、より確実に判断できるでしょう(※2)。断線箇所は大抵端子の付近ですので、後日新しい端子を用意して、ケーブル長を10cmほど詰めて取り付けなおすことで、ケーブルを復活させられることが多いです。
(3)の接触問題は頻発します。端子類は金属でできているため、長期の使用で表面に酸化皮膜ができ、導通が悪くなることがあります。音声にビビリ音が混ざったり、アナログ映像がノイズっぽくなったり、ケーブル長が短いにもかかわらずSDI信号がこない場合にこれを疑います。まずは接続部分を数十回抜き差しして磨耗させ、酸化皮膜を剥がすことを試みます。接点の導通材を用意して塗布することも一時的には有効ですが、油成分が残ることによって、屋外の使用では砂埃がつきやすくなってしまうことも考慮したほうがよいでしょう。
(4)はIEEE-1394接続しているAD変換機や、ストリーミング放送用のエンコーダーPCによく起こります。また稀にデジタル回路を多用したスイッチャーで起こることもあります。多くの場合は機器の電源を入れなおすことで復活しますが、放送直前のエンコーダー用PCで起きてしまった場合は、OSから立ち上げなおしている余裕がありません。そのような緊急時には、接続しているデジタルケーブルを一度抜き、数秒してから挿しなおすか、カメラやAD変換機の電源を入れなおしてみます。IEEE-1394やUSBなどの回路には、再接続や電源の入り切りが行われた場合に、バスリセットという、接続機器同士の再認識作業が行われる仕様となっています。このバスリセットをきっかけとして、フリーズが解消する場合も多いため、試してみる価値は大きいといえます。
- ※2 テスターを用いてケーブルの断線を確認する場合は、必ずケーブルを機器から外して行います。断線を確認するための抵抗値の測定では、テスターから電流が発生し、機器を破損してしまう恐れがあるためです
※本連載は、昨年まで「デジタル時代に学ぶ〜ビデオ技術の基礎」として当サイトに掲載されていた連載記事を改題し、再構成したものです
[ファイルベース時代に学ぶ ビデオ技術(基礎編)]連載リスト
・第1回:映像が動いて見えるしくみ
・第2回:映像・音声信号の種類と伝送 その1 その2 その3
・第3回:ファイルベースフォーマットの概要 その1 その2 その3