オタク 手塚一佳の自腹レポート〜EOS-1D Cを小規模撮影で使いこなす・第7回
取り込み現像編 その1
この短期集中連載もいよいよ最終項。キヤノンCinema EOS-1D C(以下EOS-1D C)で収録した4Kデータは、大きく分けて2つの処理方法に別れる。1つがピクチャースタイルを使った現場合わせの映像で、もう1つがCanon Logを使った後処理前提の対数色域収録だ。ピクチャースタイルを使ったやり方は、これは従来の現場色合わせの延長上だから、ビデオαの読者諸賢ならマニュアルを熟読すれば誰でもできることだろう。ここでは、後者のCanon Log撮影で得た映像の処理方法を追いかけていこう。
まずは取り込みから
筆者はノートパソコンでの現場グレーディングを重視するため、モバイルで簡易環境を構築している。実際のところ、ハイエンドな映画環境以外ではグレーディングへの理解がまだまだ広まっておらず、筆者の会社が下請けとしてスタッフ参加するならともかく、弊社が積極的に参加して機材を出すような小さな現場では従来通りの「仕上がった絵」であることを求められる場面が多い。そのため、弊社のキャンピングカーにすべてを持ち込み、電源ごと持参でどこでも移動出来ることを重視して環境を組んでいるのである。
とはいえ、現状はモバイルに適した業務クラスの4Kモニターが存在しないため、HDベースの環境となってしまっているのはご勘弁いただきたい。現状は業務としてはHDフィニッシュばかりなので問題はないし、将来に備えての4K納品であっても、細部は拡大表示で対応している(NABで聞いてきた話だと、各社InterBEEごろの発売を考えているそうだ。大変楽しみである)。
筆者は取り込みには、先述のLexar USB3.0 Dual Slot Reader LRW300Uを使用している。こうしたリーダーにCFカードを挿して、単純にフォルダをコピーして使えるのが、MOVファイル収録のEOS-1D Cの手軽なところだ(昨今の複雑なファイル構造のデータにありがちな、専用の読み取りソフトなどを必要としない!)
データの取り込み先は、ThunderboltタイプのモバイルRAIDを使っている。いままで筆者は最高速度750MB/s、実測値650MB/s以上という最高速モバイルワークストレージPROMISE Pegasus J2 512GB を使っていたのだが、EOS-1D Cの収録仕様上はそこまでの速度は要求されないため(実際、CFカードも読み書きともに100MB/sあれば良いとされている)記録データ量に優るWestern Digital My Passport Pro 4TBを使うようになってきた。
My Passport Pro 4TBの場合には容量に余裕があり、自前の写真&風景映像データライブラリなども同時に持ち運びできるため、編集上大変便利である。また、Pegasus J2とは異なり、電源をすべてThunderboltコネクタから供給でき、外部電源が不要なうえ、空冷ファン内蔵で冷却効率が高いのも非常に好ましい。連続常用利用できるモバイルRAID HDDというのは、なんとも頼もしいものだ。速度もカタログ値230MB/s、実測でも読み書きともに170MB/s以上と充分な早さ(据え置き機に付けてあったWestern DigitalのMy Book Thunderbolt DUOよりも実測値で若干早い!)。データ保存も、このディスクにシールを貼ってそのまま棚に並べればよいのではないか、という気もしている。ディスク設定はもちろんRAID 0でストライピング設定で使ってほしい。
反面、2014年5月現在、まだ、コンピュータ本体の性能は若干不足している。円筒形の最新MacProの12コアのものを除いては、たとえば最新のMacBookProの最上位モデルでもコマ落ち無しの4Kリアルタイム再生は困難で、若干のコマ落ちを理解しながらの編集作業となってしまうのはやむを得ない。とはいえ、そもそも完全な4K表示モニターがほぼ無い現状での作業であるから、2014年5月現在では、この程度はやむを得ないと筆者は考えている。HDリマスタリングの際にコマ落ちなどはチェックできるのだから問題はないだろう(どうしても4K段階でそうした多少のコマ落ち再生が気になるというのであれば、MacProの12コア版を使うと良い。4Kモニタが出そろっていないいま、デスクトップ機を買うのはコストエフェクティブとはいえないので筆者はまだ使っていないが、周囲の環境に遊びに行かせて貰う限り、見事に再生できているようだ)。
Adobe Creative Cloudを使ったカラーグレーディングのセッティング
そして、いよいよカラーグレーディングを始めよう。
今回は、ディファクトスタンダードといえるAdobe Creative Cloud(以下、Adobe CC)での作業を設定の基礎から追いかけてみよう。
筆者は従来、カラーグレーディングにはAdobe After Effects(AE)を用い、その付属のグレーディングツールであるSynthetic Aperture Color Finesse LEを使って色操作を行っていた。これは筆者のメイン業務が合成・エフェクト作業であるため、フィルム取り込みの連番ファイルでの操作が多いことからAfterEffectsでの処理が大変便利で、このようなワークフローでやってきた。
実はAfterEffectsには10年前(Ver6.5)から同ソフトが同梱されており、Synthetic Aperture Color Finesseは、知る人ぞ知るツールとしてちょっとしたカラーコレクションやCineon形式のフィルム取り込みファイルの色処理に活躍してきたのだ(実際、筆者は実はいまだに同ツールで仕上げることも多い)。しかし、Color Finesse LEはCineonなどのフィルム取り込み形式を前提としたツールであり、最近流行りのハードウェアパネルを使ったグレーディングにも対応していない。そこで、カメラごとの独自Logを使った最近のグレーディングスタイルや、LUTを使った作業の共通化のワークフローには別のツールを筆者は試し始めている。
それが、Adobe CCパッケージに含まれるハイエンドカラーグレーディングツール、Adobe Speed Grade CCだ。
とはいえ、同ツールは元々一昨年のAdobeによるIridas社買収までは400万円以上した専門ツールであり、一朝一夕で使いこなせるものでは無い。インタフェイスも独特で、カラーグレーディングパネルハードウェアを使うことを前提としたものだ(筆者は安価で高性能なTangent Waveパネルを使っている)。
しかしそこは映像業界ディファクトスタンダートのAdobe CC。ちゃんと手は考えてある。Adobe Speed Grade CCはPremiere Pro CCとの連携が強化してあり、Premiere側でファイルをつくれば、あとは相互に行き来できるようになっているのだ。これにより、SpeedGrade CCはあくまでもカラーグレーディングだけに特化して、基本的な作業はその大半を手慣れたPremiere Pro上でできることになる。SpeedGrade CCは若干重いことと、まだ不安定感のあること事を除けば、大変に便利なツールだといえるだろう。
SpeedGrade CCを使うには、まず、メインモニターの他に実際の色を見るための出力モニターの設定が必要だ(PCモニター上だけで色を見るのであれば、あまりカラーグレーディングの意味は無いだろう)。筆者は、AJA io XTと適当な色味調整済みの業務HDモニターを使っている。HDモニターを使う理由は、単にまだ業務レベルの色性能をもった4Kモニターが現実的な価格帯に下りてきていないからであり、io XTを使って自動的にHDサイズに縮小表示された絵でも、なんの問題もなく色味調整はできる。io XTはHD-SDI端子のほか、コンピュータ向けデジタル端子やHDMI出力にも対応しており、最終出力先に合わせてさまざまな環境での色味の確認ができるのが嬉しい。なお、筆者は出力モニターがまだHDの代わりに、MacBookProの作業モニターとしてQFHDのモニターDELL UP2414Qを接続しており、こちらでときおり全画面表示をしてピントや荒れなどを確認している。
なお、AJA io XTは同社ホームページからドライバをダウンロードして最新版にして使いたい。ファームを最新とすることでOS X Mavericksにも対応し、4K作業はよりスムーズになる(4Kは最新の技術だけに、やはりなるべくなら対応の早い最新OSでいきたい)。
[次回 取り込み現像編 その2へ続く] アイキャッチ モデル:すずき えり