オタク 手塚一佳の自腹レポート〜EOS-1D Cを小規模撮影で使いこなす・最終回


取り込み現像編 その3

いよいよグレーディング!

 設定が終わったところで、再びPremiere Pro CCを立ち上げよう。

 プロジェクトに、左下の「プロジェクト」パネルからEOS-1D CでCanonLog撮影した映像ファイルを読み込む。Premiere CCの場合、最初に選んだファイルシーケンスに合わせて自動的にタイムラインシーケンスをつくってくれるが、それが上手くいっているかどうかは、該当のシーケンスを選んで「シーケンス」→「シーケンス設定」から設定を確認するといい。23.976フレーム/秒、4096×2160で、フィールドなし、表示形式24fpsタイムコードになっていれば成功だ。設定が違う場合には、ここで設定をし直そう。あとは、普通のHD編集と同じ感覚で淡々と編集をしていけばいい。

 編集ができたら、早速SpeedGrade CCに移動してみよう。「ファイル」メニューから「Adobe SpeedGradeへDirect Link」を選択する。すると、保存メニューが出るので迷わず「はい」。これだけで自動的にPremiere Pro CCが閉じ、SpeedGrade CCが立ち上がる。Premiere Pro CCでつくったデータがそのまま読み込まれているはずだ。

 ここでグレーディングを開始しよう。まずはLogを解除(DeLog)したい。SpeedGrade CCは非破壊型のカラーグレーディングソフトなので、先にDeLogしても元ファイルの色空間が損なわれることは無い。色味を変更すれば元ファイルにある情報分だけ出てくるので安心してLUTを使ってしまおう(とはいえ、筆者の場合、DeLogはあくまでも参考にして、別途調整レイヤーを付けてそこでDeLogすることが多い。そのうえでそのレイヤーをオンオフしながらゼロから色をつくるケースが多い)。

 肝心のLUTだが、キヤノンの公式ホームページにあるものはただのCVSの羅列で、実際にソフトで使える代物ではない。SpeedGrade CCのソフト内にもCanon EOS-1D Cと書かれたLUTは存在しているが、どうやらこれは通常のREC709でつくられた映像をEOS-1D C風に換えるLUTであるようで、これを使うとむしろさらにフラットな映像になってしまう。

 そこで、筆者はこうしたDelog用のLUTを、CINEMA EOS USERのホームページからダウンロードして使っている(http://www.cinemaeosuser.net/index.php?/topic/80-lookup-table-for-c300-in-post/#entry260)。この中からCube形式のLUTを選べば読むことができる。

 グレーディングしたいカットを選択したら、左下の「Layers」から「+」アイコンを押し「LUT」エフェクトレイヤーを追加しよう。センターの「Look」パネル中央のロールアウトにはCanon 1D Cの文字があるがこれは前述の通り通常のRec709の色空間をEOS-1D Cの絵に似せるためのもので、まったく逆の効果だ。したがって、この文字は無視して、ロールアウトの右隣の「…」を選択する。ここから先ほどのページからダウンロードした「Cube3D」LUTを選択すれば、一発で元の色合いに戻り、それと同時に空は飛び、影は潰れたごく普通のビデオ絵に化けるはずだ。

 ここから「Overall」の「Contrast」や「Temperature」、あるいは「Shadows」「Midtones」「Highlights」それぞれの「Contrast」や「Offset」「Gamma」「Gain」をいじることで潰れてしまった空や影を起こし直していくと良いだろう。

 SpeedGrade CCやPremiere CCをとするAdobe CCの多くのソフトは、元データをいじらない非破壊型ネイティブデータ編集とその共通化を実現している。そのため、最終サイズを気にすることなく編集をし、それをグレ-ディングし、再び編集してエフェクトをかけたとしても、最終的にレンダリングするまでは元データは維持される。つまり、たとえSpeedGrade CC内でとりあえずLUTを当ててDelogしたとしても元データの色自体は残っているため、そこから大きく色味を変えてもLogカーブに保存した色味を有効に使えるのだ。そのため、単にLUTを当ててから作業が開始できるというだけでなく、シーンに1つ基本のLUTをつくってしまって、それをまず先にそのシーンの全カットに適用してから微調整のみをすれば良いということになる。これは、作業ごとにレンダリングするタイプのソフトではありえない、画期的な使い心地だ。

 次に、マスク処理として、空の部分のグレーディングのやり方をやってみよう。これは、SpeedGrade上だけではできないので、いったん左上のボタンを押してPremiere Proに戻る。当然ボタン一発でそのままPremiere Proにすべてのグレーディング結果が適用されている。

 続いて、Premiere Pro上では、プロジェクトウィンドウ上で右クリックをして「新規項目」→「調整レイヤー」を作成する。各カットごとに調整レイヤーを作成して、それをタイムライン上の1つ上のレイヤーにドラッグ&ドロップで貼り付ける。

 そして再び、「Adobe SpeedGradeへDirect Link」を押してSpeedGrade上で開くと、そこにはピンク色の調整レイヤーが貼り付けられたタイムラインがやってきている。この調整レイヤーを選択してから「Mask」を作成し、そのマスクを「Inside」することで、マスクの範囲内だけにカラーグレーディングを行うことできる。そこで、このマスクを空の位置に動かしてから青く見えるように「Highlights」の「Temperture」と「Contrast」を調整しよう。

 このように部分わけをして処理をすることで、LUTで一斉にハイライトと暗部のものを潰すのではなく、そこから部分的に対象を浮かび上がらせることができるのだ。

 なお、カットの頭にカラーチャートを入れた場合には、調光出来るライトか色評価用蛍光灯を付けて該当チャートをモニタの横で見比べて色味を合わせると人や風景と違って迷わない。調光ライトの場合には5000Kが標準だ。

 このようにして簡単につくったEOS-1D Cの収録データのグレーディング結果が、下記のものだ。

映像1 グレード前の編集結果をそのまま吐き出しただけのデータ。4Kとはいえ色味は完全にフラットになっている

映像2 グレード済みのデータ。SpeedGradeで、このように色味が付けられる。薄曇りのためこのあたりが限界か

 8ビットという色空間範囲、しかもCanonLogという通常可視領域のLogではあるが、充分に使えることが見て取れるだろう。

 なお、Adobe Premiere Pro CCとSpeedGrade CCによるグレーディングは、複数のソフトを行き来する都合上、どうしてもソフトは固まったり落ちやすくなる傾向があるように思える。特にSpeedGradeはいままで大衆向けソフトというわけではなかっただけに、やはり時折不安定になることもあるようだ。特に、ハードウェアパネルなどを接続するため、それに関わるトラブルも起こりうる。

 たとえば、ハードウェアパネル機能が暴走してマウスやタッチパットが効かなくなったときは、キーボードから脱出できる。そうしたときにはコマンド+Qキーを押してSpeedGradeを終了すれば、元に戻るのでパニックは不要だ(この現象はハードウェアパネルを付けてなくても時たま発生するようだ)。

 しかし、そうした事態であったとしても、Adobe CCによるグレーディングでは、あくまでも非破壊で編集情報やグレーディング情報を付加する形での処理を行うため、元ファイルが絶対に壊れないというのはなんとも安心感がある。もちろん不意の事態に備えてファイルの保存はこまめにしておこう。

便利なRIGも続々発売。古びないカメラ

 EOS-1D Cは、小さなボディにこうした本格的な4Kシネマ撮影機能を持ち合わせているということもあって、世界的に本格的な撮影に使われつつある。しかし、一眼レフタイプのボディゆえに必然的に機能を搭載できない部分もあり、そうした本格的な撮影にはRIGが必要となることはこの短期連載の初期にお話しした。そうしたRIGは、先の2014 NAB Showでも明確に見られ、たとえばWoodenCamera社の新しいDSLR向けラージRIGは、明らかにEOS-1D Cを意識したものとなっていた。

 パナソニックGH4などの一眼タイプの4K動画に強いカメラが出つつあるが、やはり、センサーサイズや圧縮率でEOS-1D Cに比較できるものではない(もちろん、最新のカメラならではの新機能や低価格はそれはそれで素晴らしいのではあるが)。発表から2年を経てまだまだ現役最先端というだけでも、流れが激しいいまの時代では驚異的なことだ。

 今年は4K元年といって良いほどに多くの4Kカメラの出現が見られる年だが、中でもEOS-1D Cは、スチルカメラスタイルのハイエンドの1台として、今後も当分の間君臨し続けていくことになるのではないだろうか。

 筆者は、今後もこのカメラを良き仕事の相棒として、愛し続けていこうと思う。

撮影協力:ディ・アトリエ 田部文厚
モデル:すずきえり


手塚 一佳

About 手塚 一佳

 1973年3月生まれ。クリエイター集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。東京農業大学農学部卒、日本大学大学院中退、小沢一郎政治塾8期卒、RYAショアベースヨットマスター、MENSA会員。学生時代からシナリオライター兼CG作家としてゲームやアニメ等でアルバイトを始め、1999年2月に仲間と共に法人化。アニメは育ってきたスタッフに任せ、企画・シナリオの他、映画エフェクトや合成などを主な業務としている。副業で鍛冶作刀修行中!

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