Premiere Pro で遊ぼう!〜効率を忘れた先に見える可能性・第1回
第1回〜サイケデリックな、ぐるぐるムービーをつくる
はじめに
みなさんこんにちは。Premiere Pro、使ってますか?
もはや映像制作の現場では、Premiereにかぎらず、なんらかの「デスクトップビデオ」なしには仕事が一歩も進まない、という状況になってきています。特にディレクターにとっては、自分のアイディアを最速で可視化するための重要なツールといえるでしょう。デスクトップビデオ登場以降は、ディレクター一人一人に自前の編集スタジオが「付いている」状態になりました。
というわけで、デスクトップビデオ=DTVは、映像制作を効率化するための大きな武器、といえるわけですが…。でも、しかし、PremiereをはじめとしたDTV環境は、時間も予算も関係なく、心ゆくまで映像をこねくり回し、いじりたおせる素敵な環境でもあります。そこで、ここは1つ、仕事効率化のお仕事モードから離れて、もっと、自由にこれらのソフトを使ってみようよ、と思うわけです。
本連載は、ともすればお仕事モードで語られ、使われてしまうPremiere Proを「映像と戯れるための遊園地」として捉えてお行儀悪く遊んでしまおう、というものです。
あの使い道のないプラグインでなにかできないか? みんながAEでやってるああいうやつをPremiereでできないか?同じプラグインを100個同時に適用してみたらなにが起こる? そんなこんなを考えながら、このツールを使うことでなにか開けてくる可能性があるのではないか? と思うのです。
第一回の今日は、初回ですし、ちょっと派手目なものを…。
最近、アンディウォーホールの展覧会も開催されたことですし、60年代風の、こんなおサイケ(笑)な映像を、PremiereProでつくってみます。
ムービー1:極彩色がぐるぐるしながらぐわーっと動く映像です。何かのVJ素材には使えそう
使用ツールは、PremierePro CCですが、CS6にも共通のエフェクトを使っていますのでCS6でも同様につくれるはずです。仕事ではほとんど出番のないエフェクトたちを駆使して、遊んでみます!
レシピ
■フロント素材
まず、エフェクトの基盤となる素材ですが、Premiereのタイトルツール、アドビタイトルデザイナーで作った図形です。実際には、エフェクトをいじりなが修正を加えていったものですが、だいたいこんな、単純な形の色面の組み合わせです。なんとなく反対色が隣り合うように…とだけ気をつけてつくりました。これを渦巻きに加工していきます。最終的には左側をミラーリングして左右対称にするので、図形は左側に置きます。
■バックグラウンド素材
渦巻きたちが乗っかる背景です。
これは、カラーマットに「4色グラデーション」([描画]フォルダー)を適用してつくりました。このエフェクトは画面の四隅に色を指定して最大4色を使った複雑なグラデーションをつくることができます。画面四隅に置いた4色を、黄色、緑、ピンク、青に指定して、それぞれの色の中心がゆっくり移動するようにアニメーションを加えました。4色がヌル〜、という感じで移動していきます。
■使用エフェクト
すべてPremiere Proに標準搭載されているエフェクトを使います。
その1:「アルファグロー」([スタイライズ]フォルダー)
これは、アルファチャンネルをもった素材の、透明と不透明の境目にエッジを作り出すエフェクトです。通常は、テロップをグローさせたい、といったような場合に使いますが、これを先ほどの素材に適用して、図形の周りに色のついたエッジを追加します。
その2:回転([ディストーション]フォルダー)
これは画像を渦巻きにする、ものすごくベタで強力なエフェクトですね。これ、仕事で使い道、ないなあ…。この手は、iMovieとか、Final Cut Proとかほかの編集ソフトにも搭載されていますが、まず使い道ないですよ。使い道ないけど、なかったらなかったでちょっと寂しい、という感じのエフェクトです。いつか、これをおもいっきり使ってぐるぐるさせたい! と思っていました。今回は、これを複数使って思う存分渦巻きをつくります。
その3:ミラー([ディストーション]フォルダー)
そして、ミラーです。左右対称というのは、サイケ風のお約束なのでどうしても必要です。これも、複数使って、左右上下にミラーリングして対称をつくり出します。
その4:ラフエッジ([スタイライズ]フォルダー)
ビジュアル効果の仕上げとして使うのが、ラフエッジです。
このフィルターは、アルファチャンネル付きの素材の、透明部分と不透明部分の境界をギザギザにするものです。つるつるのなめらかな渦巻きに、グニャグニャ、ギザギザのエッジを追加します。
その5:カラーキー([キーイング]フォルダー)
上記ラフエッジを使うためには、渦巻きにそってアルファチャンネルがなければいけません。そのために、このカラーキーを使って、適当な色調をキーアウトして、渦巻きの中に透明部分をつくります。
つくってみよう!
■STEP1:アルファグローで輪郭を追加
さて、最初は、「アルファグロー」です。
これはエフェクトとして、というよりも、テロップとしてつくった元素材に、もう少し色を付け加えたい、という目的で使用しました。素材になるテロップにアルファグローを適用し、色をブルーに設定して、ちょっと太めのグローを付け加えます。今回は、素材はなるべくパキっとさせたいので、[フェードアウト]パラメーターをオフにして単純な色の帯をつくります。
ちょっと寂しい感じがしたので、もう一個、アルファグローを重ねて、こんどは黄色に設定。
これで、素材の図形の外側に、青と黄色のエッジが加わりました。
■STEP2:回転で渦巻きをつくる
次は、今回のほぼ主役といえる、「回転」エフェクトです。回転は、都合4個使用しました。
それぞれ、渦巻きの中心点と半径を変えて設定。
このエフェクトのパラメーターは、渦巻きの中心位置と、その半径、あと巻き数というか「ぐるぐるの度合い」があります。これらを適宜調整して、渦の巻き数を時間経過でだんだん多くなるようにアニメーションさせています。
■STEP3:ミラーで対称にする
次に、「ミラー」を2つ使って、渦を左右、上下対称にします。
最初のミラーで、左右対称、2つ目のミラーで、上下に対称をつくり出しました。正確な対称ではちょっと味気ないので、若干角度をずらしてちょっとアナログな風情を出してみました。
この段階で、4色グラデーションを使ってつくったバックグラウンド素材と合わせてレンダリングしてみます。できたのがコレです。
ムービー2:ステップ1〜3の段階で、4色グラデーションを使ってつくったバックグラウンド素材と合わせてレンダリングた映像これはこれで、すっきりしてモダンな感じ(?)ですが、「サイケ」というにはちょっと「えぐ味」が足りません。もっとヤバイ感じにするには…そうです、「フラクタル」です。
渦の輪郭に、グニャグニャしたコントロール不能な要素がほしい。
■STEP4:カラーキーで、ラフエッジ用にアルファチャンネルを追加する
渦巻きの黒い部分は、実は透明で、アルファチャンネルが存在します。ですので、これにそのままラフエッジを追加してもいいんですが、ちょっとそのままだと細かすぎるのか、あまり効果的ではなかったので、ラフエッジ用に新たにアルファチャンネルを追加することにしました。
計画としては、これまで設定してきた素材を、エフェクトごとコピーして、上のビデオトラックに重ね、キーアウトした上でラフエッジを適用。つまり、本体の渦巻きとは別に、カラーキーとラフエッジを使ったギザギザエッジ素材を用意して、合成する、という作戦です。
まず、素材をまんまコピーします。そのうえで、カラーキーを適用し、適当にスポイトでキーアウトする色をピックアップ。カラー許容量のスライダーをいじってちょうどいいところを探します。結果、下図のような紫色の領域をキーアウトすることにしました。
PremiereProのクロマキーは、「Utraキー」が定番ですが、こういったザックリしたアバウトな用途には、カラーキーのようなパラメータの単純なエフェクトが助かります。
■STEP5:ラフエッジでゆらゆらしたエッジを加える
STEP4の状態に、「ラフエッジ」を適用します。
エッジの生成方法がポップアップメニューから選べるようになっていますが、今回は、色のついたギザギザが欲しいので「ラフ&カラー」を選択。これは、エッジをギザギザさせた上でそこに色付きの帯を追加するオプションです。帯の色は赤に設定。
フラクタルの影響度合いとか、ギザギザのサイズや、シャープネスなどスライダがいくつかありますが、あちこちいじって、図のような状態に。このエフェクトは、そのままでは静止していますので、「展開」のパラメータをアニメーションさせてグニャグニャ動くようにします。
まだちょっと食い足りないので、もう一個ラフエッジを追加し、先ほどのギザギザエッジの外側に、さらに細い白のギザギザエッジを付け加えることにしました。
■STEP6:全体を合成する
STEP5でつくったギザギザエッジを、本体の渦巻きと合成します。
4色グラデーションのバックグラウンド素材、本体の渦巻き素材、ラフエッジの素材の順番で重ね、タイミングをぴったり合わせて配置して、レンダリングを行います。
これで、今回のお遊び、サイケな渦巻きムービーの完成です!
主役となった、回転エフェクトのぐるぐるは、何か独特の快感がありますね。今回のように、エフェクトを多数適用する場合には、Premiereのエフェクトは「上から計算される」ということを意識すると良いと思います。上から順番に、ああなって、こうなるよな、そんでもって…と想像しながらエフェクトを重ねていきます。
★ ★ ★
普段仕事に使う場合にはあまりいじることのないエフェクトを使って、いろいろ試行錯誤してみると、PremiereProというツールが本来もっているポテンシャルが見えてきたり、開発者の心意気がなんとなく実感されたりして、なかなか面白い体験ができます。こうして自分が普段使うツールを深く体感することで、お仕事モードでもきっといつか役に立つ知識や勘所が身についてくるに違いありません。
では、楽しいPremiereライフを!
次回は、ノスタルジックな8mmフィルム風画づくりをしてみようかなあ…お楽しみに。
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