爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第7回


シネ コダック(CINE KODAK)MODEL「K」と「K-100」

はじめに

 アメリカの「イーストマン コダック社」(EASTMAN KODAK)は、フィルムを製造する会社です。コダックのビジネスモデルは「1.フィルムを売って儲ける」「2.現像して儲ける」「3.焼き増しして儲ける」というもので、これは企業にとって収益の上がるシステムでした。このモデルを覆す原因となった「デジタルセンサー」を開発し、フィルムの需要を奪ったのは、他ならぬコダックだったのは、皮肉なことに思えます。

 コダックにとって、カメラはフィルムを売るために必要な道具だと考えていたのでしょう。フィルムを大量に売るために、アマチュア向けにできるだけ簡単に撮影できるカメラを製造、発売してきました。写真用、映画用を問わず、フィルムカメラが全世界に普及するにしたがって「あなたはシャッターを押すだけ、あとはコダックが引き受けます」というコマーシャルのとおり、コダックを世界的なブランドに押し上げました。

 映画用16mmフィルムも例外ではなく、プロ向きだった35mmフィルムをダウンサイジングして、アマチュアでも手が届く価格の映画システムを創造して、フィルムの大量販売に結び付けようとしたものです。

 1923年、白黒、両目(両側にパーフォレーションがある)、光学サウンドトラックの無い16mmフィルム発売と同時に、50フィートスプール巻きを使用する「シネ コダック」(CINE KODAK)カメラが発売されました。今回採り挙げるカメラは「シネ コダック」を改良して、100フィートスプール巻きを使えるようにした、1930年に発売された「モデルK」(MODEL K)と、1956年に発売された、発展型「K-100」です(写真1)。

モデルK

■外観

  アルミの躯体に茶色の化粧革を貼った長方形の「弁当箱」形のボディに、革の吊り手が付いています写真2

 吊り手はオリジナルではなく、爺が特注して作らせた代替品です。カメラの上面には、吊り手と円形のフッテージ(FOOTAGE)カウンター。吊り手の左にスポーツファインダー。右には、目を離して上から見る、反射ファインダーがあります(写真3)。

 カメラの後から見て、左側にはフィルム室の蓋と開閉ボタン(写真4)。右側には上から、スプリング巻上げクランク、その下に、コマ速変換ボタン(通常のスピードは16コマ、ボタンを押し込むと12コマ程度になります)、シャッターレバーがあります(写真5)。下面には、三脚孔があるだけです。

 正面には、反射ファインダーの対物レンズ、3本ピンの特殊なマウントとレンズ、簡易露出表があります(写真6〜7)。

 16mmフィルムトライアルルーム(以下、ルーム)のNo.3789(巻き上げクランクの裏側に刻印)には、「コダック アナスティグマット(KODAK ANASTIGMAT)25mm F1.8 No.11413」が装着されています。この他に交換レンズも数種類あったようです。面白いことに、レンズには絞りの表示は無く、簡易露出表にあります。たとえば「平均的な風景及び直接太陽光が当たったシーン(順光)」(AVERAGE SUBJECTS AND SCENES IN DIRECT SUNLIGHT)ではF8になっています。この露出から、フィルムの感度はISO10程度だったことが想像されます。また、スポーツファインダーの対物レンズは撮影レンズに固定され、交換レンズごとに視野が決まっていました(写真8)。

■内部
 蓋を開けると、「これでいいのか」と思うほど湾曲したフィルムプレッシャープレート、回転してフィルムを給送する偏芯カム、フィルムループ形成経路のギア、スプールを巻き取るスプリングが見えます(写真9)。

 空スプールを収める板には50と100の表示があり、50と100フィート巻きが併売されていたことを示しています。空スプールの収納部を上へ跳ね上げると、生フィルムを収納するスペースが現れ(写真10)、左にフッテージカウンターに直結するレバーがあります。

 読者の皆さん、思い出してください。第1回から4回までに採り上げた4種類のカメラは、100フィート巻きスプールを2個収納するスペースが必要でした。モデルKは最初期の16mmカメラにも関わらず、100フィートスプールを上下に重ねたコアキシャルタイプのフィルム室を採用し、小型化に成功しているのです。このことは、後の16mmカメラに大きな影響を与えました。

■フィルム装填
 生フィルム室にスプールを落とし込み(写真11)、蓋を閉めて、巻き取り側へフィルムを引き出します(写真12)。装填経路の通りフィルムをセットし(写真13)、巻き取りスプールへ巻き付ければ完了です。

■撮影
 巻き上げクランクでスプリングをチャージします(いっぱいに巻き上げると40秒弱回ります。ただし、最後の方は耳でもはっきりわかるほど回転が落ちてきますから、30秒が実用範囲でしょう)。露出表で絞りを選び、目測でピントを合わせ、スポーツファインダーか反射ファインダーで構図を決め、シャッターを下へ押す、この手順はファインダーがレフレックスになり、電動モーターが取り付けられても、フィルム映画カメラが誕生して以来、変わりません。

 この「シネ コダック モデルK」はI社のWさんから寄贈されました。1930年の発売以来80年以上経過した現在も動き続け、ルームのカメラのなかでは最長老です。

K-100

■外観
 黒の化粧革と銀色の磨き出しアルミがシャープな外観を強調しています。モデルKを大きくして、3本ターレットを取り付けた形です。第2次大戦後、アメリカの製造技術が頂点に達していた時期の、優れた工作精度が実感できます。

 正面の銘板には「CINE-KODAK K-100 TURRET CAMERA.・・16MM」と印刷されています(写真14)。その上のターレットには3個のCマウント、レンズの焦点距離に対応した視野の対物レンズを取り付ける小口径の3個の円形マウントがあります。

 カメラ後部から見て、左側の蓋には、最も重要な「簡易露出板」。ここには1935年発売の「コダクローム デイライトタイプ(KODACHROME DAYLIGHT TYPE)」、コマ速度「16コマがノーマル(16 NORMAL)」、絞り「明るい太陽光下(BRIGHT SUN)」でF6.3が平均(AVERAGE)、と極めておおらかに表示されています。このことは、カラーネガフィルムを使い、複数のプリントを複製することは考えていないことを示しています。また、プロの使う24コマ/秒ではなく、16コマ/秒のスピードは撮影時間を長くし、秒当たりの単価を下げる目的で、アマチュアに配慮した仕様になっています。その上に「フーテージカウンターの窓」。その左に「蓋開閉ノブ」があります(写真15)。

 右側には、上から「ファインダーフォーカスノブ」(レフレックスではないただの光学ファインダーのピントを合わせてどうするのでしょう。視度調整にしては凝り過ぎです)、「コマ速度変換ダイヤル」(16、24、32、48、64コマの表示)、「シャッターレバー」(押し下げるとスタート、もう一段押し下げるとロックがかかり、回転を保持できます)、「スプリングリザーブゲージ」(いっぱいに巻き上げると40秒の表示、実際には24コマ/秒で55秒回りました)。黒い2個の蓋は注油ポイントを示しています(写真16)。

 後面には、光学ファインダーの接眼部(写真17)。上面には吊り手、下面には三脚孔があるだけで、非常にシンプルです。

■内部
 蓋を開けると、2個の100フィートスプールを収めるスペースとフィルム装填経路が派手な色で示されています。モデルKでは100フィートスプールを重ねて収めるコアキシャルタイプだったのが、普通の並列タイプになっています。他には、開閉できるプレッシャープレート部。フィルム給送のギアとプラスチックの押さえだけ。内部も非常にシンプルです(写真18)。

■フィルムの装填
 狭い隙間のようなフィルム給送部にフィルムをセットするのは面倒ですが、図の通り気長にやれば、間違うことはありません。シャッターを押して、自動的に装填できればいいのですが、ボレックスやスクーピックのように、フルオートにはなっていません(写真19)。

 フッテージカウンターを0に合わせてから、蓋を閉めます。アマチュア向けのカメラでは、シンプルな操作とコストを両立させなければならなかったのでしょう。

■撮影
 コダックのカメラですから、3本の「シネ エクター(CINE EKTAR)」レンズ、15、25、63mmが標準セットです(写真20)。

 どれもアルミ鏡胴のチープな外観ですが、性能は世界の一流レンズに劣ることはありません。撮影した印象では「赤」の色再現が鮮やかで、エクターの独特な世界を創っています(写真21〜22)。

 コマ速度を選び、レンズを選択し、絞りを絞り、目測でピントを合わせ、光学ファインダーで構図を決め、シャッターを押す、モデルKと同じです。ルームに動態保存されている2台の「K-100」は、C社のKさんと、「アリは最強のナンパ道具」の名言を吐いたN君によって寄贈されました。

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 今回は「シネ エクター」の実写を載せましたが、16mmカメラの紹介が一巡した後、各シネレンズで実写した写真をシリーズで紹介しようと考えています。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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