4K漂流記〜番外編2・YouTubeで8K動画の投稿と再生を検証
先月、YouTubeが8Kに対応しました。
そこで、早速、どのくらいの手間や時間がかかるのか、実際に試してみました。
時間や労力は想像できますが、実際どのくらいのものかはやってみなければわかりません。
結局のところ、4Kや8Kの問題というのは技術的に可能か不可能かの話ではなく、不便さやコストを許容できるかということです。
手順はこうです。
1:ソニーF65RS(F65RAW-SQ@59.94p)で撮影する
2:RAW ViewerでOpenEXRに出力
3:After Effectsで編集し、movファイルとして出力する
4:YouTubeにアップロード
作業には一昨年導入したワークステーション(※)を使いました。スペックは下記のとおりです。※4K漂流記・第2回にて紹介(http://www.videoalpha.jp/column/3155.html)
本体:HP Z820
OS:Windows 7 Ultimate
CPU:Intel Xeon E5-2690 2.90 GHz×2
メモリー:12GバイトDDR3 1600 MHz ECC
GPU:nVidia Quadro K2000
外部HDD:CineRAID CR-T08X 12Tバイト
RAIDコントローラー:MegaRAID SAS 9286-8e
拡張ユニット:CUBIX Xpander Desktop Elite,ELSA GeForce GTX780 ×3
HCA:Mellanox MCX354A-FCBT
撮影〜素材準備
まずは撮影です。梅雨時で、当日もあいにくの曇り空でした。
今回、撮影自体はそれほど重要ではありません。しかし、晴天でコントラストが高いほうが見栄えがよくなりますので残念でした。
つぎに撮影した素材をRAW Viewerで読み込みます。今回は、下記の2つの撮影素材を使用することにしました。
では、この2つの撮影素材を、RAW ViewerでOpenEXRに変換します。
RAW ViewerでF65RAWを8K解像度として出力できる形式は、DPXとOpenEXRです。
OpenEXRはDPXに比べると重くなるため、特に実写映像では馴染みが薄いという方もいらっしゃるかもしれませんが、CGや合成ではよく知られた形式です。
今回の主目的からは外れますが、F65RAWで撮影した8Kの動画データを実際的に活かそうという場面は、合成やHDRI(ハイダイナミックレンジイメージ)としてではないかと思ったため、使ってみました。
出力設定は下記スクリーンショットのとおりです。
出力したOpenEXRファイル(下記スクリーンショット)は、1枚あたり約202Mバイトになりました。
59.94fpsだと1分30秒(2つの撮影素材のおおよその合計時間)で約1Tバイトということになります。
また下記のとおり、出力にかかった時間もファイルサイズにふさわしいものでした。
撮影素材[No.1]
Time:3:08:48
Size:392.47Gバイト(1984 files)
撮影素材[No.2]
Time:6:16:34
Size:718.87Gバイト(3634 files)
編集〜書き出し
続いてAfter Effectsに読み込みます。
それでは書き出しです。After Effectsのメニューから選択して、Adobe Media Encorder に送ります。
YouTubeの最大アップロード容量は128Gバイトです。
試しに、8ビットRGB非圧縮で書き出してみたところ、下記のように約700Gバイトとなりました。
Format: QuickTime
Codec: Uncompressed RGB 8ビット
Resolution:8192×4320
FPS:59.94
Size:711.78 Gバイト
Time:5:28:55
元のサイズである1Tバイトから考えると3割引きですが、まだまだ不充分です。
ファイルサイズを128Gバイト以下に収めるためには、なにか圧縮をかける必要があります。
思案の結果、下記の書き出し設定のとおり、コンテナはQuickTime、コーデックはMPEG4を選択しました。
そして解像度について、下記のように8192×4320と7680×4320の2種類のファイルを作成しました。
F65RAWを縦4320で現像した場合、横は8192となりますが、YouTubeのプレイヤーは16:9が基本になっているからです。
解像度[8192×4320]
Format: QuickTime
Codec: MPEG4
Resolution:8192×4320
FPS:59.94
Size:15.65Gバイト
Time:4:01:59
解像度[7680×4320]
Format: QuickTime
Codec: MPEG4
Resolution:7680×4320
FPS:59.94
Size:14.69Gバイト
Time:4:38:30
アップロード〜再生
では、いよいよ、アップロードします。
8192×4320の動画は、解像度は8Kですがフレームレートは30pになりました。
7680×4320の動画は、8Kには至らず、4K60pが選択可能な上限になりました。
7680×4320の動画を色調整してみました。
YouTubeの動画再生画面の上で右クリックすると、その動画に関する技術的な情報を表示させることができます。
なお、7680×4320の動画はアップロード直後は「2160 60p」の選択肢がありましたが、現在は「1080 60p」が上限になっています。8192×4320の動画は8K(30fps)が選択可能です。
8K映像はデータとしては扱えることがわかりました。しかし、8K映像の再生環境が整うのは、いまの調子だと2018年くらいではないかと思います。
YouTubeが8Kに対応したと知ったときは、まず素直に驚きました。それから、これは興味深い状況だと思いました。現時点で8K映像の対応機器がほとんどないからです。
つまり、だれも見られないけれども、サービスは開始されているわけです。いま現在は対応できないけれども将来に期待して、というのは、まるで冷凍睡眠のようです。
これは映像としては不思議な状態です。なぜなら映像は、人に見られることによって初めて成立するからです。一般に開放されている世界最大の映像配信の場で、「見ることができない映像」が生じているという状況は面白いと思いました。
しかし、思い返せばYouTubeが4Kに対応したときも、似た状況だったように思います。将来への布石として技術を誇示するためか、あるいはより単純に「可能ならばやる」という精神かはわかりません。
いま現在、このようにして8K映像を扱うことは、ほとんど無駄と言ってよいと思います。それに、どうせ計算負荷を増大させるなら、HDRや色域の拡張のほうが、より有効な活用であると思われます。
でも、とにかく賛成です。