ローランドHDビデオスイッチャーV-1HD 〜HDMI4入力2出力を装備したハーフA4サイズのコンパクト一体型



 近年のビデオ制作の現場において、映像・音声信号の受け渡しはSMPTE292Mに準拠された「HD-SDI」が主流であるものの、「HDMI」の使用頻度も年々増しているのは周知の事実だ。パソコン機器やBlu-ray Discレコーダーなどのコンシューマー製品に限らず、業務用モニターやスイッチャーのような放送・業務用機器においても「HDMI」インターフェースを装備した機器が目立つ。

 そんな状況の中で、ローランドから “V-1HD” が2015年12月より発売される。このV-1HDは、4入力2出力のHDMIを搭載しており、HDMIに特化した一体型のコンパクトHDスイッチャーである(写真1、2、3)


 対応フォーマットは、HD(1080/59.94p, 50p, 59.94i, 50i、720/59.94p, 50p)に限定されるが、スイッチングだけでなく、ピクチャーインピクチャーやクロマキー合成を初め、VJライクな機能など多彩なエフェクトも搭載しており、ハーフA4サイズというコンパクトさながら、機能を詰め込んできたなという印象を受ける。

 筆者が所属しているイルージョンは、テレビ番組を初めとするビデオ制作技術の業務全般を請け負っている技術プロダクションだ。V-1HDの特長を踏まえ、弊社で運用することを想定した場合、3つのシチュエーションが考られる。
 そこで本記事では、その3つのシチュエーションに合わせて、さまざまな検証を行ってみた。

V-1HDをメインスイッチャーとして使用する

 インターネットによるライブ配信などでは手ごろな価格でシンプルに機材を構築したいという要望をよく聞く。
 たとえば、小型カメラ2台に、ゲーム画面とパソコンソースのような、計4ソースの入力で収まる場合はV-1HDという選定になってくる。

 セッティングは、HDMI入力にカメラやパソコンなどの各入力ソース、HDMI出力にはライブ配信の本線を接続し、HDMIプレビュー出力に接続した外部モニターでプレビュー画面を4分割表示させる。V-1HDのプレビュー画面は4分割固定のみでソース(チャンネル)の配置も固定となる(写真4)


 「A1〜4/B1〜4」ボタンは、各チャンネルに信号の入力がある場合は白色点灯するようになっているので、無信号のチャンネルとの切り分けが容易である。
 また、この「A1〜4/B1〜4」ボタンは、出力中は赤、スタンバイ(つぎに出力)時は緑に点灯する。4分割プレビュー画面は、このボタンの選択に連動しており、選択されているチャンネルの画面枠が、赤枠、緑枠となることで、タリー表示に対応している。

 トップパネルのボタンの押し心地やボタン同士の間隔、フェーダーレバーの感触は、筆者としてはかなりフィットしてオペレーションしやすかった(写真5)


  基本セットアップ項目は、本体トップパネルの「BPM」ボタンの長押しでHDMIプレビュー出力にオンスクリーンで表示することができる(写真6)。メニューの階層はなく、全11ページから細かく設定することが可能だ。そのほか、「MEMORY」ボタンの長押しで映像のエフェクト系の設定ができ、「AUDIO」ボタンの長押しで音声設定や音声ミキサーの調整など行うことができる。

 またV-1HDでは、USB接続したパソコンの画面上で、各種項目の設定変更もできるほか、スイッチングや合成などのコントロールも可能となっている(写真7)。パソコン操作の場合は、あらかじめ専用ソフトウェア(V-1HD RCS)のインストールが必要になる。


 V-1HDの音声は、HDMI音声1〜4chのほかに、アナログのライン入力とステレオマイク入力端子を搭載しており(写真8)、モノラル換算で12chの音声をミックスし、HDMIやライン出力から出すことが可能である。本体トップパネルを見ていただくと分かるが、ミキサーフェーダーが省略されているため、ミキサー操作は本体のオーディオメニュー、または上記の専用ソフトウェアによりUSB接続のパソコン画面上から行うこととなる。


 また音声については、各入力ソースに対してディレイやEQなどをかけられるのがうれしい。
 さらに、ローランドの他ラインナップにも搭載されている「オーディオフォロー機能」がV-1HDにも搭載されている。オーディオフォローをONにするとスイッチャーのボタンに連動して選択しているソースの音声のみが出力される。オーディオフォローをOFFにするとボタン連動が解除されオーディオミキサー設定に依存する。

 対戦ゲームのネット配信業務を請け負う業務の場合、筆者はケースバイケースでこのオーディオフォローを使い分けしてオペレーションしている。PGM音声は本体のヘッドホン端子でモニタリングが可能であるが、心細い場合はパソコン画面のオーディオメーターをモニタリングすることをお勧めしたい。

V-1HDをサブスイッチャーとして使用する

 最近のパソコンはグラフィックスボードの性能も上がり、HDMI端子から1080/60pを出力するものを増えている。
 しかし、放送・業務用ビデオスイッチャーでは、1080/60pに対応し、複数のHDMI入力を装備した機器は、まだ少ないのが現状である。

 入力ソースが4つ以上ある業務の際はV-1HD以外のスイッチャーの選定となるが、スイッチャー側が1080/59.94i仕様で、入力ソースとしてゲーム機器やパソコンからのHDMI・1080/59.94p出力が複数台ある場合、コンバーターがソース台数分必要になるため(HDMIをSDIにコンバートしてから、1080/59.94pを1080/59.94iにフォーマット変換、さらに場合によっては音声をデマルチプレクスすることもあり、1ソースに対して3つのコンバーターが必要なこともある)、システムが複雑かつ予算も増えることなり筆者の仕事でも悩みどころであった。

 しかし、V-1HDが使用できることになるなら、条件さえ満たせばこのコンバーターをすべてなくして1台のV-1HDに置き換えることが可能になる。
 
 V-1HDの内部処理はプログレッシブ処理とのことだが、V-1HDは本体のリアパネルにフォーマットスイッチを搭載しており、「1080p」、「1080i」、「720p」が選択できる(写真9)
 これは出力フォーマットの選択ということになり、入力については720pと1080系の共存はできないものの、1080p/iは混在できるのでシステムを容易に組むことが可能だ。


 そこでゲーム機器やパソコンの1080pのソースを、いったんV-1HDで受けて1080iの出力設定にし、メインスイッチャーへ送るという構成にするのである。ただし、V-1HDにはスケーラー機能は搭載されていないので注意が必要だ。

V-1HDをコンバーターとして使用する

 V-1HDは上記ですでに述べているように、さまざまな機能を搭載しているのでコンバーターとしての使用も可能だ。

 まず1つ目として、1080/59.94p出力を1080/59.94iに変換するコンバーターとして使用することができる。ただし720pと1080pの相互変換や480iの信号は対応していない。

 2つ目は、オーディオのデマルチプレクサーとしての音声コンバートだ。パソコンに映像や音声を出力できるHDMI出力は装備されているがアナログで音声を抜き出したい場合や、パソコンにヘッドホン出力はあるもののSN比が悪かったり、つなぎ替えによる接触不良のような事故を防ぎたい場合などは、V-1HDのライン出力から音声を抜くことが可能である。

 そして最後の3つ目は、2つ目とは逆の音声マルチプレクスである。HDMIに音声マルチプレクスする機器があまり世の中ないので、Atomos NINJAなどのHDMIレコーダーで収録する場合などに最適である。


 V-1HDは、ビデオスイッチャーの入門機としての導入、またはハイエンドのサブスイッチャー兼コンバーター代わりとしての導入など、さまざまな業種・用途で使用されるケースが多く考えられる。V-1HDによって、ビデオ制作の可能性がさらに広がるのではないだろうか。

価格:¥12万8000(税別)
発売:2015年12月中旬
問い合わせ先:ローランドお客様相談センターTEL 050-3101-2555
URLhttp://www.roland.co.jp/products/v-1hd/(メーカー製品情報)


About 菊池徹

株式会社 イルージョン所属。同社制作技術本部 技術管理部 部長

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