爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第3回


ボレックス その1

はじめに

 ボレックス(BOLEX)はスイス製で、ギアやカムを使った超精密なアナログメカニズムの塊のようなカメラです。マニアにとっては所有するだけでも価値があるようで、世界中にコレクターがいます(写真1)。第1回のアリフレックスは純然たるプロ用のカメラですが、ボレックスはハイアマチュアからプロまで、広く活用されてきました。16mmカメラとしては安価な価格設定のうえ、バッテリーを使わないスプリングドライブ、手動コマ撮りなど、撮影に便利な機能が搭載されています。

 16mmフィルムトライアルルーム(以下、ルーム)には、3台のボレックスが動態保存されています。爺が所属していた日本シネセル株式会社の「H16REX4」。株式会社シネマ沖縄の「H16SBM」。C社Kさんの「H16EL(電動)」です(写真2)。16mmフィルム制作の需要が少なくなったため、ルームに寄贈していただき、自由に使える状態に保たれています。

ボレックスの歴史

 ボレックスは、1933年、「Jacques Bogopolsky(ジャック ボゴポルスキー)」さん(1825年、ウクライナ、キエフ生まれ)が設計して製造、発売されました。姓は「Bolsey」または「Bolsky」とも呼ばれていますので、そのBolとExを組み合わせて16mm映画カメラ名としています。後に35mm写真用カメラ「Alpa」も設計しました。

 インターネットで「History of Paillard Bolex」を検索すると、非常に多くのボレックスに関するページが出てきます。それだけ、世界の人々に愛されてきたカメラです。社名は「Bolex Paillard」から「Bolex International」に変化しています。ちなみにどこかの雑誌にPaillardを「パイヤール」と発音すると記述がありましたが、ボレックスの輸入代理店アナミ海外株式会社の山本三佐男(やまもと・みさお)社長は「ペイラード(英語の発音)としか発音しない」と回答しています。フランス語では「ペラール」でしょうか。ご教示ください。

日本におけるボレックスの現状

 ボレックスは、現在も新品が製造販売されています。アナミ海外株式会社のホームページにカタログが載っていて(http://www.anamikaigai.co.jp/pages/3_bolex.html)、日本で買うことができます。

 カメラはH16SBM(スプリング駆動)、H16EL(電動モーター駆動)、両機ともスタンダード16mmとスーパー16mm仕様があります。レンズはスイター(Switar)10mm、75mmのプライムレンズ。バリオスイター(Vario Switar)12.5〜100mm、(スタンダード16mm用)14.5〜115mm(スーパー16mm用)のズームで、2本ともCマウントとバヨネットマウントがあります。 

 同社の山本社長から「部品の確保、修理の体制は万全で、安心して使ってください」と力強いコメントをいただいています。なお、2012年にアメリカで開発発売された「デジタル ボレックスD16(Digital Bolex D16)」も取り扱いを検討しているそうです。

ボレックスH16REX4

 ボレックスH16REX4の基本的な特徴は、

  1. スプリング(ゼンマイ)で駆動するカメラですから、電源を必要としません。フルに巻き上げると30秒ほど回ります。短いようですが、30秒以上のカットは稀です。
  2. 秒速64コマまでのハイスピード撮影が可能です。
  3. 手動でコマ撮り撮影ができます。
  4. シャッターが開閉できますから、フェードイン、フェードアウトが現場でできます。
  5. アクセサリーを使うと、オーバーラップもできます。
  6. フィルム装填はオートマチックです

と、いたれり尽くせりの機能が満載です。

 また、基本的なフィルム給送メカニズムが、1955年から変わっていないのは、アリフレックス16STとも共通しています。ハーフミラープリズムでレフレックス化したのは1956年のことです。REX4型は1965年の発売ですでに50年近く経過しています。このタイプの最新型REX5と比較すると、400フィートマガジンが取り付けられないほかは、機能に違いはありません。

■概要
 外観は、頭が丸く出っ張った、黒い四角い箱です(写真3)。内部に100フィートのスプール巻き16mmフィルムを装填するのは、アリフレックス16STと同じですが、完全に上下の位置にセットします(写真4)。

■フィルム装填
 フィルム装填は非常に簡単で、銀色のレバーを90度倒すとフィルム経路が閉じますから(写真5)、底部にあるカッターでフィルムの先端をカットして(写真6)、矢印の差込口に挿して(写真7)、シャッターを押すと自動的にフィルムが空スプール側へ出てきます(写真8)。

 その先端を空スプールに巻き付け、セットすれば完了です(写真9)。

 その機構のため手動やダークバッグ装填はせず、なるべく暗い場所で日中装填することが基本です。これは、ボレックスの最大の欠点、フィルムループが短くなって、画面が流れる事故を防ぐためです。蓋を閉めると装填経路は自動的に復元します。フィルムプレッシャープレート、掻き落しピン、レジストレーションピンの3種がアリフレックスと同様に備わっていますから、画面の安定性は優れています。

■アイピースとファインダー
 ボディ上部右側に、アイピースがあります。本来はレフレックスではなかったので、後から取り付けたように見えます(写真10)。

 アイピースからファインダーを覗くと、ピントグラスにはなんの表示も無く、摺りガラスのザラザラした面が見えるだけです。アイピースの視度調整リングを回して、ザラザラ面が一番はっきり見えるところで固定します。これはレフレックスカメラすべてに共通した「作法」です。

 視野率はフィルム面に対して95%ほどで、タイトルなど精密な撮影をする時は注意が必要です。

次回 ボレックス その2へ続く


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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