爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第4回


ボレックス その2

ボレックスH16REX4 

■各部の機能
 正面には、回転ターレットに3個のレンズマウントが付いています。16mmでおなじみのCマウントです(写真1)。その他にシャッターボタン、ターレット回転レバー、マウント固定レバーが取り付けてあります。

 右側のボディキャップを外すとプリズムが見えます(写真2)。このプリズムは斜め45度にカットされて、ハーフミラーを挟んで、接着してあります。プリズムは引き起こして、プリズムのガラス両面のほか、フィルム面を清掃することができます(写真3)。

 100%の光量を利用する回転ミラー式ではありません。ハーフミラーによって、35%の光をファインダーに送り、65%の光をフィルム面に送っています。その結果、アリフレックスでは24コマ=48分の1秒だったシャッタースピードを80分の1秒で計測します。または48分の1秒で露出を計測する場合、フィルムの感度を3分の1低く設定するか、絞りを3分の1開ける調整をしなければなりません。

 ハーフミラーで減衰された35%の光線しかピントグラス上に投影されないので、絞りを絞った状態ではピントグラスは相当暗くなり、画面を確認するのが難しくなりますから、蓋に単独のビューファインダーを取り付けることができます(写真4)。ビューファインダーは、パララックス調整、10〜150mmまで8種類の交換レンズの焦点距離別に視野の設定ができる凝ったものです。

 アイピース側から見て右には、スプリングを巻き上げる大きなレバーや、各種のツマミ類が沢山見えます(写真5)。ボレックスの銘板の左は、電動モーターを取り付けるとき、スプリングを解除するレバーです。

 銘板の下はスプリング巻上げクランクで、モーターを取り付ける時は外します。右側はコマ数カウンターと0点合わせツマミです。左の丸窓の半分赤い表示はフィートカウンターです。右の2つのツマミ、左側はフィルム回転確認用、右側はクランクを差し込み、スプリングを解除して、シャッターボタンを押して固定すると、手動でフィルムを正逆回転できます。クランク1回転で1コマ送れます(写真6)。

 その右側の縦に動くレバーはシャッター開閉レバーで、ツマミを引き出して操作します。その下の小さいツマミは、Tがコマ撮りのタイム(長時間)露光、Iがコマ撮りの80分の1秒露光です。大きなツマミは毎秒12コマから64コマの速度変換ダイヤルを動かします。一番下がシャッターボタンで、後へ引くと連続回転、前へ押すとコマ撮りです。

■ボレックスH16SBM
 H16REX4とH16SBMの違いは、400フィートマガジンが取り付けられ、バヨネットマウント専用になり(写真7)、視度調整リングの形状が変わったことです(写真8、9)。

■ボレックスH16EL
 H16ELは、H16SBMの電動化型で、12VDCバッテリー電源が必要になりました。その結果、露出計が内蔵され、24コマがクオーツ制御になり、ハイスピード撮影が50コマに制限されましたが、他の機能はH16SBMと同じです(写真10)。

アクセサリー

■ピストルグリップ
 ボレックスは、手持ち撮影がやりにくい形をしていますので、ピストルグリップが不可欠ですが、数が少なく、非常に入手が困難です。
 
■ケーブルレリーズ
 カメラに直接手を触れないでシャッターを押せるので、コマ撮りには欠かせません。カメラに取り付ける部品がボレックス専用なので、市販品は使えません。

■手回しクランク
 手動でフィルムを給送する小型のクランクです。1回転で1コマ送ることができます。

■ゼラチンフィルターホルダー
 ゼラチンフィルターを切って、挟み、カメラに挿入して使います。ゼラチンフィルターを使わない時もホルダーを挿入しないと、挿入口から光が漏れて、フィルムがカブリます。
SBM型用は専用の形をしています(写真11)。

 上記4種類のアクセサリーはボレックスを快適に使う上で欠かせません(写真12)。ボディだけ入手することが多いものですが、できればアクセサリーの揃っている出物を探すべきです。

■電動モーター
 H16REX4、H16SBMは巻き上げクランクを外して、取り付けます。室内でのコマ撮りにはAC100Vを使い、室外のロケではDC12Vを使います。ルームのモーターには国産のインターバルタイマーが付属していて、コマ撮りが自動的にできます(写真13)。なお、H16ELも手動と、インターバルタイマーによるコマ撮りができます。

ボレックスの長所、短所

 ボレックスは、昨今のDSLRの機能を先取りして「撮影に必要なあらゆる機能が盛り込まれている」といっても過言ではありません。アリフレックス16STが、「ドイツ流の組織」を挙げてプロ向けのタフな単能カメラを追求したのに対して、「ボルちゃん個人」が自分の趣味のために、少々複雑で壊れやすいことを犠牲にしても、万能カメラを目指したのがボレックスなのかも知れません。そのコンセプトは、初期型スプリングドライブから完成していました。だからこそ、世界で一番売れた16mmカメラなのでしょう。

 爺は24コマの撮影にはアリフレックスを使い、コマ撮りや水中専用機としてボレックスを使っていました。1970年(爺21歳)、石川県の「白山」山頂から、ボレックスの手動レリーズで10秒に1コマ、シャッターを切りながら「夜明けをコマ撮り」した体験をいまでも鮮明に覚えています。新人の爺は「人間インターバルタイマー」だったわけです。 
 小型軽量で「なんでもできるボレックス」は、プロが荒っぽく使うには少々脆弱な面はありますが、リュックサックの中に負担なく収まり、非常に重宝しました。

 アリフレックス16STも同じですが、400フィートマガジンを取り付けるとバランスが悪くなり、使い勝手が悪くなります。ボレックスの本質は「資金に余裕のあるアマチュアが、手持ちでホームムービーを悠々と100フィートずつ撮影する」のに適したカメラなのです(写真1415)。

 次回は、ベルハウエル社のフィルモ(FILMO)70DRです。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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