Voice of Live Streaming・第1回〜株式会社ツアーバンクシステム/T.B.S JAPAN


ウェディングビデオ制作会社が選んだライブストリーミング用機材

 1997年に大阪で創業したツアーバンクシステムは、その名前からわかる通りハワイにおける旅行業からスタートした。その後、リゾート挙式の需要の高まりを受けて映像業に参入。海外ではグアム、バリ、パラオに展開し、日本では東京、熊本、沖縄、石垣、宮古島に支店を置いている。国内外の支店では主にウェディングビデオ制作を手がけ、大阪本社ではウェディングビデオに限らず映像制作全般で活動しているほか、デザイン制作事業部なども併設している。

 同社では、ライブストリーミングに関わる業務として、毎年1月に某専門学校の新年会の撮影を担当している。今回はその撮影に使用するために新しく導入されたストリーミング用の機材と運用について、映像制作セクションおよび情報機器販売セクションに所属する大浦敏弘氏にお話を伺い、さらに同社のメイン業務であるウェディングビデオにおけるライブストリーミングの可能性についてもコメントをいただいた。
(編集部注:大浦氏は2015年4月以降、ツアーバンクシステムに所属しておりません。本記事は取材当時の内容になります)

堅牢性に気を使うリゾート挙式の撮影

・御社の主要業務となっているリゾート挙式のウェディングビデオは、年間でどのくらいの数を制作しているのですか?

大浦氏:挙式撮影の本数は、沖縄だけで1か月に約260本。シーズンによって増減がありますがグアムでは1か月で多くて約700本、年間で4,000本を軽く超えています。
 海外挙式のお客様のほとんどは日本人でしたが、最近は台湾や中国のお客様が増えてきていて、それぞれ好みが違いますね。もっとゴージャスにとか、ビデオはいらないから写真だけにしてほしいとか、さまざまなリクエストがあります。

・かなりの数に上りますね。使用している機材や収録方法は通常の挙式撮影と違いがあるのでしょうか。

大浦氏:大きな違いはないですね。チャペルにはインストールカメラを平均で3台設置していて、映像はHD-SDI。コントローラーとスイッチャーに繋いで収録するという形が一般的です。弊社では情報機器販売セクションが、契約しているチャペルへの機材の手配なども行っています。直近では、沖縄とグアムにパナソニックのカメラAW-HE100を導入しました。
 収録はその場でスイッチングしながら、プログラムアウトのHD-SDIと各カメラのパラを直接4台のパナソニックAG-HMR10Aに入力しています。
 収録直後にその場で編集して披露宴の最後に流すために、データをエディタに渡すということがありますが、基本的に撮影の後はデータを持ち帰って編集。スイッチングでミスしているところがあった場合には、パラの収録データを使って手直ししてパッケージ化するというスタンダードな流れですね。

・リゾート地だからこそ気を使っていることなどはありますか?

大浦氏:気温、潮風、砂埃などによって撮影環境が過酷で、機材トラブルは通常の撮影に比べると多い傾向にあります。あとは使っている頻度が違うので、機材の堅牢性にはとても気を使っています。

ライブストリーミングで扱いやすい機材を導入

・リゾート地では堅牢性に気を使うとのことですが、今回ライブストリーミングを目的に新しく機材を導入するにあたっては、また違った観点で検討が行われていますよね。まずは、今回の撮影の概要をお聞かせいただけますか。

大浦氏:全国に拠点をもつ某専門学校が、毎年全国各地で新年式を行っていたのですが、あまりにも時間と労力がかかるということで、4年くらい前から式自体をストリーミングすることになったのです。配信先は正確に確認してはいないですが、少なくとも北海道、仙台、名古屋、福岡、大阪、東京の6拠点は流しています。オーストラリアなど海外にも配信されているはずです。
 今年はその学校が所有するホールのこけら落としも兼ねて、式後のライブコンサートのストリーミングも行うということで、会場の大きさに合わせて映像機材もSDからHDに新調することになりました。
 受信側の機材でHDを受けられない会場もあるため、HDはUstream 、SDは以前から使用していたシステムにて、合計2回線を同時配信しました。ただし、弊社の業務内容としては基本的に映像をお渡しするだけで、ストリーミングに関しては学校グループ内の部署でシステムが組まれました。

 ・規模に合わせてSDからHDへの更新ということですが、機材を整えるうえでテーマのようなものはあったのでしょうか。

大浦氏:そうですね、当たり前のことですが「ライブストリーミングで扱いやすいこと」を前提にしました。ストリーミングの現場でHD-SDIの信号を扱うというのが初めてだったので、まず、HD-SDIを出力できるカメラとして、ソニーのPXW-Z100を3台調達しました。また会場が大きくて正面のステージには寄りきれないので、後方に置いたカメラ ソニーHDW-790(レンズ:キヤノンHJ40X14B IASD-V)を1台で対応しました。
 基本的には全部新しいモノづくしで、収録テストも前日からの急な対応だったため、不安が多い現場でしたね。そのため、スイッチャーは直感的に使用できるローランドのVR-50HDをチョイスしました。SDの頃からVR-3やV8を使っていたので、もし私がいなくても誰かが担当できるという安心感もありましたね。
 HD用にはプログラムアウトをHDMIで、SD用はUSBで配信チームにお渡しして、それとは別に普段使用しているパナソニックのHG-MR10で収録も行いました。

 ・機材導入後にストリーミングならではのトラブルなどはありましたか

大浦氏:会場のプロジェクターにコンポーネントで入力しなくてはならなくて困ったのですが、VR-50HDがRGBのコンポーネントを出力していたので、急遽ネットで購入したRGBコンポーネントで対応しました。
 あとは現場でPowerPointの映像を入れなきゃいけないことになって、そうすると全部HDのところにSDが入ることになるわけです。式典のときは3カメ+PowerPointの4入力を切り替えましたが、サイズの調整とクロップ作業が大変で半泣き状態でした。

 ・今回は新年式の後にライブコンサートもあったわけですが、収録時間は気になりませんでしたか?

大浦氏:ストリーミングと収録の時間は、式典自体が1時間半か2時間くらい、そのあとにコンサートがあったので合計4時間くらいずっと撮りっぱなしでした。最終的なメディア化はDVDと聞いていましたが、HDでも画質設定を抑えたのでノーカットで収録でき、DVDに収録して納品できました。

ライブストリーミングへの期待

・今回、導入した機材はライブストリーミングに適したものという観点で選んだわけですが、ウェディングビデオにも使用される予定はあるんでしょうか。

大浦氏:ウェディングビデオでも最近はプロジェクター出しのためにHD-SDIを希望されることが多くなっています。今回導入した機材の流用もあるかもしれませんね。今後はそのあたりも加味して、さらに携帯性や堅牢性が効いてレスポンスのよい機材を集められたらと思っています。

・実際にウェディングビデオにストリーミングサービスを取り入れるというのは?

大浦氏:通信回線が発達すれば、やっぱりそれを使って「一緒に同じ時間を共有する」ことが求められますよね。ウェディングビデオを撮る側も、手軽に高画質でライブストリーミングをしてみたい。でも、正直なところライブストリーミング自体は、まだほとんど行っていません。1度だけ、挙式会場に人が入りきれなくて披露宴会場に映像を流さなくてはならないというのはありましたが…。

・テスト的にやってみるのはアリかもしれませんが、商品として出すとなると失敗は許されないですものね。

大浦氏:そうなんですよね。どの業界でもそうですが、リスクマネージメントを考えなくてはならないですし、とくにブライダルではその辺がシビアになります。
 でも、挙式に出席できない遠方の祖父母に対して、リアルタイムに自宅にストリーミングできればかなり喜ばれるでしょうね。個人的に一度、身内の挙式でiPhoneを使って簡単なストリーミングをしただけでも喜ばれましたから。
 あとは、パッケージ用としてインストールカメラで撮る場合も、チャペルの中からスイッチャーまでは有線なんですが、配信という意味ではこれも無線になると非常に助かりますね。

・ウェディングビデオ制作とライブストリーミングを並べて考えるということは、課題は多いけど実現できたときに面白いことは多いですね

大浦氏:はい。業界的に踏みとどまっている感はありますが、ブライダルの商品として出すときに求められる安定性を本当にクリアできれば、この業界でもライブストリーミングは活用されるだろうと期待しています。


About 小川貴之

六本企画

同カテゴリーの最新記事