Premiere Pro で遊ぼう!〜効率を忘れた先に見える可能性・第2回
第2回 よみがえれ! スーパー8!
みなさんこんにちは。Premiere Proをとことん遊び倒す、本連載の2回目は、前回つぶやいた通り「8ミリフィルム風映像加工」に挑戦です!
僕が映像の勉強を始めた19才のころ(あー、もう30年以上も前だ)、学生風情が自腹でつくれる映像といえば、スーパー8やシングル8といった、8ミリフィルムだけでした。スマフォでささっとHDビデオが撮影できるいまの状況とは大違いです。ヨドバシカメラ新宿西口店で、コダック社エクタクロームのスーパー8フィルム5巻パックかなにかを、昼飯浮かせたお金でせっせと買っていたものです。
今回は、そんな懐かしい8ミリフィルムの質感をPremiereでシミュレーションしてみようではないか、というわけです。実際には、画像の成り立ちも、再生方法もなにもかも違うので、正確に再現など不可能ではありますが、ある種の記憶色のような「8ミリフィルムっぽさ」をつくっていくことはできるのではないかと思います。
まずは、仕上がりをご覧いただきましょう。結構コテコテなものができ上がりました。
ムービー1:懐かしい8ミリフィルムの質感をPremiere Pro標準搭載のプラグインのみでつくってみました。結構コテコテなものができ上がりました
今回も、Premiere Pro標準搭載のプラグインのみでつくっています。
レシピ
レシピを考えるにあたって、まずは「8ミリフィルムらしさ」を形づくる要素を分析してみることから始めたいと思います。大きな特徴は、フィルムが横幅8ミリしかない、ということでしょう。幅が16ミリの半分、劇場映画用の35ミリフィルムの4分の1程度です(正確にはちょっとちがうんですが)。
フィルム面が小さいからといって、画像を描写するフィルム粒子がその分小さくなるわけではありませんので、現象としては「解像度が悪い」ということになります(といっても、ある資料によると8ミリフィルムの解像度は60万画素ぐらいはあるようです)。さらにフィルム面の面積に対して粒子が相対的に大きくなりますから「粒子のつぶつぶが見える」。
そして、フレームレートが独特です。カメラによっては35ミリ映画と同じ24fpsも使えますが、8ミリフィルムのデフォルトになるのは18fpsです。つまり「動きがぎこちない」、かつ「フリッカーおこりがち」つまりカクカク動く上に、チラチラする。さらに、シャッタースピード遅めなので、1コマの中で映像はブレています。
まず第一段階として、これら、「解像度悪い」「粒子見える」「カクカクする」「チラチラする」「ブレている」の5要件を解決していきましょう。
■使用エフェクト
その1〜解像度悪い:「ミディアン」([ノイズ&グレイン]フォルダー)
まず、解像度を悪くするために、ぼかす系のエフェクトを使います。今回は「ミディアン」使用しました。これは、隣接するピクセル同士をまとめて統合していく感じのエフェクトです。通常はノイズ軽減とか、絵画調の画像加工なんかに使うと思います。
その2〜粒子見える:「HLSノイズ(オート)」([ノイズ&グレイン]フォルダー)
「粒子が見える」については、単純にノイズをかぶせることで解決してしまいます。ノイズを加えるエフェクトはいくつか用意されていますが、ノイズ粒子のサイズがいじれる「HLSノイズ(オート)」を選択。
その3〜カクカクする:「ポスタリゼーション時間」([時間]フォルダー)
「カクカク」させるために使うのは、フレームレートを再定義するためのエフェクト「ポスタリゼーション時間」です。
その4〜チラチラする:「ストロボ」([スタイライズ]フォルダー)
画面を「チラチラ」させるためには、色面を定期的に出力する「ストロボ」を使用します。
その5〜ブレている:「エコー」([時間]フォルダー)
画像をブラすには、残像をつくり出すエフェクト「エコー」を使用します。
最後に、色調を調整して、8ミリフィルムのアスペクト比(約4:3)をもったマスクをかぶせます。
つくってみよう
■STEP1:ミディアンで解像度を悪くする
まずは、ミディアンを適用して、画像を「ぽやっと」させます。よりどころになるデータはなにもないので、見た目で適用量を調整し、「ちょっとぼうっとしてんじゃないの? この画」、という感じに。このあとも画質を荒らす系のエフェクトを多用するので、あまりやすぎないように、控えめに。
■STEP2:ポスタリゼーション時間でフレームレート変更
次に、動きを間引いてカクカクさせるため、「ポスタリゼーション時間」を適用してフレームレートを変更していきましょう。このエフェクトは、一連の動きを中抜きして、いわゆる「間欠運動」を与えるものですが、その頻度をフレームレートで指定するようになっています。
■STEP3:ノイズHLS(オート)で粒子を加える
次に粒子です。
「ノイズHLS(オート)」を適用して、明度(L=ルミナンス)にノイズが発生するようにします。ノイズの種類を「粒子」に設定すると、粒子のサイズを変えるスライダーが使えるようになるので、これを動かして、「たしかこんな感じか~?」となるサイズに調整。
さらに不透明度も下げて元の画像と馴染むようにします。
で、この粒子も1コマ1コマに焼き付けられているので、フレームレート1/18fpsで動いていています。ですので、ポスタリゼーション時間の前(上)に移動させます。
■STEP4:エコーで画像にブレを加える
8ミリフィルムのブレは、シャッタースピードの遅さに由来しています。18fpsでシャッターの開角度を仮に半円の180度とすると1/18秒の半分、1/36秒のシャタースピードということになります。
シャッタースピードが遅くてぶれている、というわけですから、動きの速いものほど大きくブレて、動きの小さいものはあまりブレないことになります。AfterEfectsの場合は、モーションブラーを使えば解決するのですが、Premiereにはないので、似たような効果が期待できるエフェクト、「エコー」を使おうと思います。
これは、残像を指定の回数、指定の濃度で残していくエフェクトです。音でいうとやまびこ効果ですね、ビデオ版「ディレイ」です。このエフェクト、意外にコントロールが難しくてなかなか思ったとおりにいかないのですが、しつこくトライアンドエラーを繰り返して、まあ、こんなもん? という線をさぐります。シャッタースピード1/36秒と計算してみたものの、この数値を反映できるパラメータは、このエフェクトにはないので、結局、勘が頼りに…。
このエフェクトのポイントは、残像が「残る」ようにするには、残像の深さをコントロールする「エコー時間(秒)」をマイナスの値にする、というあたり。プラスの値にすると残像が先行して湧いてきてしまいます。
シャッタースピードのブレは、1コマの中でブレているわけなので、残像が粗いとちょっとニュアンスが違ってきますね。「エコーの数」をいじってちょっと多めの残像を残しました。また、残像を残すときの描画モードの設定「エコー演算子」も大きく見た目を左右します。今回は、いくつか試して「最大」を選択。
この残像も、1/18fpsで動いているはずなので、ノイズと同様、ポスタリゼーション時間の前(上)に移動させます。
■STEP5:ストロボでフリッカーをつくる
次は、画面がチラチラする、フリッカー問題を解決します。使うエフェクトは「ストロボ」です。これは、長さと間隔を秒数指定して、定期的に色面を出力するエフェクトで、極端に使うと画面をパカパカ点滅させることができます。
8ミリフィルムのチラチラは、1コマを映写して次のコマに移動する時に、映写機のシャッターで光が遮られて、一瞬画面が黒くなることから生じます。ですので、黒いストロボを定期的に出力するようにします。
1秒18コマ、1/18秒の中で露光とコマの送りが行われるので、単純計算で、半分の1/36秒が黒味であると計算してみます。先ほどのシャッタースピードの計算と同じですね。とすると1/36秒=(約)0.33秒。
というわけで、ストロボデュレーションを0.33に設定します。そして、同じ間隔でストロボが来るように、ストロボ間隔をその2倍の0.66に設定します。このストロボデュレーションとストロボ間隔の関係、ちょっとわかりにくいです。ストロボデュレーションはストロボそのものの長さ、ストロボ間隔は、最初のストロボがスタートしてから、次のストロボが来るまでの間隔です。どちらもスタート地点は同じです。たとえば、1秒間隔にストロボがほしいときは、デュレーションを1秒、間隔を2秒に設定します。
完全に黒にしてしまうと、刺激が強すぎてパカパカしてしまうので、眼の残像効果を考慮して不透明度を調整して弱くしました。
これらの設定は、ポスタリゼーション時間の設定とは微妙にズレてくるのでぴったり理屈どおりにはいきませんが、雰囲気だけ出せれば…。
■STEP6:色調とアスペクト比を整える
これでひととおり懸案の5要件を処理できましたが、ついでに、色調もいじっておきましょう。
フィルムなので、黒が締まっているかなあ、あと映写された状態を想像すると、白も少し飛んでいそうです。元のナチュラルな色調からすると彩度も少しあげたほうが雰囲気が出そうです。これらは、手早くクイックカラー補正を使用。みなさんもそうかもしれませんが、僕はこのエフェクトがもっとも使用頻度高いです。
これまでの一連のエフェクトの適用状況はこんな順番です。フレームレートを決める「ポスタリゼーション時間」は、動く要素の後(下)に来るように配置します。
最後に、タイトルツールを使って、4:3のマスクをつくり、一個上のトラックに配置します。これは、マスクの内側にあたる4:3の四角を長丸長方形ツールで描いて黒く塗り、「反転」エフェクトで、アルファチャンネルとRGBを反転させて合成しました。ブラー(ガウス)でぼかしも若干入れてあります。
こうして、できたのがこんな感じ。
ムービ2:第1段階として「解像度悪い」「粒子見える」「カクカクする」「チラチラする」「ブレている」といった8ミリらしさを演出する5要件を施したものです
もう少し凝る
上記の5要件をクリアしただけの状態でも、そこそこ8ミリっぽいんですが、もう少しぼろぼろにしたいですね、味というか侘び寂びが足りません。
8ミリフィルムは家庭用の規格なので、保管状態も結構いい加減なので埃もつきがち。8ミリフィルムには「デカイ埃」がつきものなのです。埃を入れましょう。
そしてさらに、映写機のランプが劣化してくると。映像の周辺部がぽやっと暗くなります。これも再現したい。
■STEP7:「稲妻」で埃をつくる
Premiereには、この埃をつくれるかもしれないエフェクトが1個搭載されています。「稲妻」です。これは光の始点と終点を指定して、稲妻を発生させるエフェクトです。これを上手いこと使って埃を作成したいと思います。
クリアビデオを1個用意して、それに稲妻エフェクトを適用します。稲妻の色は、「埃」なので、光の中も外も黒に設定します。次に、稲妻の始点と終点にキーフレームを打って、なるべくランダムに移動するようにします。都合20個ほどのキーフレームで動きをつくります。
ただ、これだけでは、なんだかミミズのようなものがのたくっている状態で、埃には見えません。これを、ランダムに一瞬出現して、次のコマでは消えている、みたいに見せないといけません。そのために、フリッカーでも使用した「ストロボ」を使います。
先ほどのチラつきの再現には、等間隔で黒味を出力しましたが、今回は、ランダムな間隔で「透明」を出力します。
とりあえず、ストロボデュレーションとストロボ間隔を、本体クリップと同じ0.33と0.66に設定します。そして、「ストロボ」のオプションで、ポップアップメニューから「アルファチャンネル」を指定します。こうすると、色の替わりにアルファチャンネル(透明)を出力するようになります。
また、「ランダムストロボの間隔」のオプションに確率を%で指定すると、その確率でランダムに出力されるようになります。確率に関してはひとまず、10%を設定。さらに、埃も本体と同じフレームレートになるように「ポスタリゼーション時間」を適用して18fpsに調整します。
これで、本体クリップと同じフレームレートで埃が動き、しかも、ときどき出現する、という感じになります。
試しに、この擬似埃を、白いカラーマットに合成してレンダリングしてみたものがコレです。まあ、埃といわれれば埃?ですね。
ムービー3:Premiereのエフェクト「稲妻」を使用。擬似埃を、白いカラーマットに合成してレンダリングしてみたものがコレです。まあ、埃といわれれば埃? ですね
これを、4:3マスクの前(下)に合成します。
■STEP8:映写機ランプの劣化による周辺光量の低下を再現する
今度は、映写状態です。映写機のランプが劣化して、周辺部の光量が落ちている様子を再現したいと思います。考え方としては、ちょっと明るく調整した上記の画像(本体)を、中心部から周囲に向かってボケていくトラックマットを使って元画像に合成します。
まず、本体ビデオをコピーして、ぴったり重ねた状態で上のトラックに配置します。さらに、ブラックビデオを作成して、先ほどのトラックの上に配置。このブラックビデオに「カラーカーブ」エフェクトを適用して、円型のボケた白黒マスクを作成します。
で、本体をコピーしたムービーに「トラックマット」を適用して、マットとして、上記白黒マスクのトラックを指定。マットのタイプを「ルミナンス」に指定します。
続いて、このクリップに適用しているクイックカラー補正を使って、「飛び気味」に調整します。これについては、エフェクトをいじらず、描画モードをスクリーンとか比較(明)などに変更する、というやり方もアリかもしれません。
これでひと通り完成です。冒頭のムービーができました。映像演出としてみると、なんかちょっとやりすぎかな?という感じですが、でも楽しかったです。こういうのは、あれこれ考えながら「やってみること」に意味があります。
反省点としては、8ミリフィルムの18fpsにこだわったものの、案外15fpsぐらいでもかえって雰囲気出たかもしれません。ちょっとなんか、フリッカーや動きが忙しい感じがします。スーパー8が製品化される前は、レギュラー8というリールに巻かれた8ミリフィルムの規格があったのですが、そのフレームレートは秒16コマでした。なので、15fpsというのも必然性なくはないですね。
こういうフィルムチックな加工は、サードパーティ製のプラグインを使って手軽にやろうと思えばできるんですが、課題を1個1個抽出して、しつこく解決していく、という手間を掛けることで、アタマの体操にもなるし、映像というモノの「成り立ち」を考える良いきっかけにもなります。
さらに凝ろうと思えば、フィルムの退色具合をシミュレーションしたり、フィルム傷を入れたり、テープスプライサーを使ったフィルムの繋ぎ目を再現するとか、フィルムの端っこの現像ムラを再現するとか、まだまだコテコテにする余地はあると思います。みなさんもぜひ、挑戦してみてください!
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そういえば、前回のぐるぐるおサイケムービーですが、motionelementsという動画素材販売サイトで販売してみました。が、まったく売れません(笑)。他に販売しているリップルとか水の流れみたいな素材はたまーに売れるんですけどね~。このサイト、BG素材の入手にも利用していますが、おすすめです。面白い時代になりましたね。
http://www.motionelements.com/ja/stock-video-3129778-psychedelic-move
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