Voice of Live Streaming・第2回〜株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ
マーケットの公平性を保つIR用ライブストリーミング
株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズは、IRや株主向け・採用向けツールなどを提供することで、企業とステークホルダーをつなげる活動を行っている企画制作会社である。世界初の「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティング会社、株式会社リンクアンドモチベーションの企業グループに属している。アニュアルレポート(年次報告書)を扱っていた会社と動画配信を扱っていた会社、その他数社が統合し2009年に発足。2011年に現在のリンクコーポレイトコミュニケーションズに社名を変更し、広くコーポレイトコミュニケーション支援を行う企業として展開している。
事業は主にIRと採用関係の2つがメインとなっており、紙媒体で企業の会社案内やアニュアルレポートを作成するほか、Webサイト制作や映像制作も行っている。今回は決算説明会や採用セミナーなどのライブストリーミングを担当しているWebソリューション部 部長 篠崎 透氏とエンジニア 正徳 久人 氏にお話を伺った。
動画配信の需要を促すフェア・ディスクロージャーの精神
・まずは御社がIRに関するライブストリーミングを行うようになった背景を教えていただけますか?
篠崎氏:IRにおいては「フェア・ディスクロージャー」という考え方があります。企業がIR情報を市場関係者に明かした場合、一般の投資家に対しても速やかに情報提供をしなければならないという考え方です。
情報は証券取引所の取引が終わったあとにリリースすることが多いのですが、情報の量や内容をフェアにするのはもちろんのこと、時間の格差が生じないようにしなければなりません。早く情報を仕入れたほうが取引に有利なため、リアルタイム性が求められるわけです。この取り組みに積極的なお客様にライブストリーミングサービスを導入いただいています。
現在、上場企業の総数は3,600社強です。その中で弊社がライブ配信を行っているのは15社くらい。まだまだ少ないですが決算は四半期ごとに行いますので、単純に計算しても年間で約60本以上は決算発表に関する配信を行っていることになります。
・決算説明会の場合、規模によっては事前の段取りに時間がかかりそうですが、案件が発生してからの流れを教えていただけますか?
篠崎氏:オーダーをいただいたら、日時と内容に合わせて機材とスタッフを手配します。つづいて会場と回線の確認です。説明会には報道関係者やアナリストの方も同席しますので広いスペースが必要なため、お客様の会社にある会議室やホテルなどで開催することが多いですね。配信用の回線は会場で手配していただくか、NTTに問い合わせて臨時に敷いてもらうこともあります。
配線費用はだいたい3万円強。すでにホテルの配電盤まで敷設されていることが多いので、そこから伸ばしていただく程度の工事ですが、それでも1か月くらい前から手配しなければなりません。基本的にはメインとサブで2本、共用ではない配信専用の回線をご用意いただくようお願いしています。
正徳氏:扱うのは重要な決算情報ですので、とくに安全性に気を使います。そのため配信用のシステムは必ず2セット用意して、1つがダウンしてもすぐに切り替えられるようにしています。
スタッフの規模は最小で3人、最大で8人くらい。人数が多くなるのは、英語で同時通訳の配信も行う場合に機材が2倍になるときです。日英両方ともメインとサブを組むので、同じシステムが4セット並ぶことになります。
・回線のバックアップにはかなり気を使っていますね。
篠崎氏:はい、安定性・安全性は重要視しています。さらにCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)を導入することで、沢山アクセスがあっても負荷を分散してきちんと配信できるようにしています。
いまと同じシステムではないですが、過去の実績では3万5,000件の同時アクセスを経験しました。ライブだと内容によっては突発的に負荷がかかる場合もありますから、お客様に安心していただくためにも、CDNを入れて安定して配信できるようにしています。
スライドの細かい数値までクリアに映せる機材を採用
・使用する機材や実際の運用方法を教えてください。
篠崎氏:日英同時配信を例に挙げると、まずエンコーダーPCが4台、スイッチャーはローランドのマルチフォーマットAVミキサーVR-50HDを2台設置します。スイッチャーに関してはカメラからの映像2chと静止画1chで、同時に3ch使用できるものを選びました。スライドの細かい数値もクリアに表示されなければならないので、画質にもこだわっています。500kbpsのエンコードでは文字が読めないかと危惧していたのですが、250kbpsでもクリアに表示されたので嬉しかったですね。
正徳氏:モニターはPC用の小型モニターが4台とスイッチャー用が1台、カメラからの接続はSDIがほとんどで、スライドを送るPCとの接続は企業によってさまざまですがD-sub15ピンが多いです。
・決算説明会の配信はHDで行っているのですか?
篠崎氏:決算発表では4:3の画角がまだ主流でして、カメラの機種は主にDSRシリーズを使っています。最近ではXDCAMのPMW-400なども使用してHDでも配信しています。
カメラは2カメが基本で、センター後方に1台設置してもう1台は前方の上手か下手。2カメ体制の時はカメラマン2名とスイッチャーがついてくれるので、弊社のスタッフは配信作業に徹します。エンコーダーの設定やサーバーがしっかり稼働するよう裏側の段取りに注力することが多いですね。
限定配信や双方向配信が好評
・決算説明会のほかには、どんな配信サービスを行っていますか?
篠崎氏:IPアドレスで制限をかけて限定配信を行うサービスも行っています。社長の年頭の訓示などを各拠点に同時配信して、社員に向けて情報共有を行うことなどにご利用いただいております。
限定配信の場合、お客様側では広報部が主体で動くわけですが、IPアドレスに制限をかけるお願いなどは情報システム部の方と綿密な打ち合わせを行います。とくに地方などで回線がプアな場合には、年頭の訓示のために1年がかりで何千万円もかけて回線を用意したこともありました。
このほか最近では記者会見でご利用いただいたり、採用関係のWebセミナーという形でご利用いただくことも増えています。
・Webセミナーというのは?
篠崎氏:遠隔地の学生向けにWebセミナーを定期的に発信することで、内定者とのリレーションを保つ効果を狙っています。一方的に流すのではなく、画面内にチャットができるタイムラインを設けて、リアルタイムに質問を受けつけるインタラクティブな双方向配信も好評です。先日開催した某企業のWebセミナーでは、来場者が1日に300人、3日間で900人ほど集まり盛況でした。
・採用関係でライブストリーミングを行う場合には、IRとまた違った側面もあるのでしょうか。
篠崎氏:IRは正確性に重きをおいていますが、採用の場合だと学生を対象にしていますので、トレンドや新鮮さを重視した企画を提案するケースが多いですね。
また、Webセミナーのチャットは個人情報の取り扱いに気を使うことはもちろんですが、お客様は「タイムラインが荒れるのではないか?」と心配されることが多い。でも、意外に荒れないんですよ。採用選考は継続中なので、ほとんどが真面目な質問です。実際に自分の先輩になるかもしれない方がリアルに返答してくれるわけですから、その会社に入りたいと思っている方には有意義な情報を提供できていると思います。
・最後に今後の展開をお聞かせいただけますか。
篠崎氏:決算発表の時期はかぶるので今後は徐々に機材の在庫を増やしていこうと思っています。
正徳氏:そうですね。配信システムやノウハウは整ってきましたので、受注増加に備えて機材セットを増やしていきたいですね。
・本日は、ありがとうございました。