ファイルベース時代に学ぶ ビデオ技術(基礎編)第3回 その2: ファイルベースフォーマットの概要


HDVとファイルベース記録

 〜テープからファイルベースに転身を遂げたフォーマット

 民生用DVフォーマットが進化して、同サイズのカセットテープに、地デジと同じMPEG2-LongGOP圧縮のHD映像データを記録できるようにしたのがHDVフォーマットです。そのため基本はテープベースのフォーマットとなりますが、それまでのDVフォーマットに比べてドロップアウトによるノイズの影響が出やすいことと、後段の編集処理がPCベースになりつつあった時代背景を受けて、ソニーが内蔵HDDやCFメディアにHDVのMPEG2映像ファイルを記録する外付けユニットHVR-DR60(2007年)、HVR-MRC1K(2011年)を相次いで開発し、HDVがファイルベースメディアの仲間入りをしました。

 これらのユニットで記録するファイルの拡張子は“m2t”で、ディレクトリはソニー独自の構造ですが、各ノンリニア編集ソフトがいち早く対応し、本格的なファイルベースワークフローの先駆けともなりました。

 記録フォーマット上の水平画素数は1440ドットとなり、フルHDが当たり前の今日の視聴環境を考えると、やや古臭さが感じられなくもありませんが、地上波デジタル放送の画素数も同様に水平1440画素であり、さほど解像度が甘いとは感じられません。

 HDVフォーマットの欠点は、元々インサート録画の機能を備えないため、EEDの録画用メディアとしては使えないことです。当然HDVテープによる完パケ納品は想定されていません。あくまでもカメラで撮影する際に使用する素材用のフォーマットだということです。

AVCHDの特徴と歴史

 〜家庭用フォーマットが2つの業務用に進化

 家庭用として、2006年にソニーとパナソニックが共同で開発したのがAVCHDですが、画質的にも優れているため、ソニーが「NXCAM」というブランド名で、パナソニックが「AVCCAM」というブランド名で、それぞれ業務用のビデオカメラを発売しています。またキヤノンは業務用Xシリーズの下位モデルにAVCHDを採用しています。HDVとは異なり、企画当初からテープメディアを排除したファイルベースフォーマットで、記録にはDVD、SDカード、メモリースティック、カメラ内臓のHDDやフラッシュメモリを使用します。

 HDVに使用されているMPEG2よりも2倍効率がよいと言われるMPEG4/AVC(H.264)圧縮を使用しており、記録ビットレートは現在のVer2.0対応の機種で28Mbpsまで可能ですので、HDVより高画質という位置づけになります。その余裕分を利用して、水平画素数1920ドットのフルHD記録にも対応しています。

 ディレクトリは図2のように構成され、STREAMフォルダ内に映像の実体ファイル(*.mts)が格納されています。このMTSファイルは最新のOSに付属している再生ソフトで直接再生確認を行うことも可能です。ただしMPEG4/AVCコーデックはMPEG2よりも計算量が増えるため、PC上ではスムーズに再生できないことが多くなります。デコード(伸長)による再生時はまだよいのですが、ファイル生成のためにエンコード(圧縮)を行うと、MPEG2より数倍時間がかかることを覚悟しなくてはなりません。そのため撮影用のフォーマットとしてのみ使用するのが賢い使い方で、編集ではAVCHDのネイティブモードではなく、編集ソフトメーカーが独自に用意している、圧縮の軽い中間コーデックを使用してやり繰りするのが一般的です。

デジタル一眼の動画ファイル

 〜大型撮像素子の表現力に根強い人気

 デジタル一眼レフカメラの高性能化によって、静止画以外に動画の記録も可能となってきました。ズームの動きや内臓マイクの性能はビデオカメラに遠くおよびませんが、撮像素子のサイズがフィルムに近く大きいために被写界深度を浅くとれ、映画カメラのような表現力を期待できるのが特徴です。そのためCM制作をはじめ、一部の作品ジャンルで多用されるようになりました。

 デジタル一眼レフカメラの記録フォーマットは、家庭用のビデオカメラを発売しているパナソニックやソニーはAVCHDですが、キヤノンやニコンはMPEG4/AVC圧縮のMOVファイルになります。そのため記録済み動画ファイルの取り扱いは、ソニーやパナソニック製デジカメのユーザーは“ビデオ流”に、キヤノンやニコン製カメラのユーザは“PC流”で行うことになります。このビデオ流とPC流の違いについては、後節にて説明します。

NLEに使われる動画ファイル

 〜処理の軽量化を重視したフォーマット

 地デジ放送やHDVに使用されているMPEG2 LongGOP圧縮や、AVCHDのMPEG4/AVC圧縮は、画質の劣化を抑えながらもサイズを20〜40分の1に縮小できる優れた技術ですが、そのためには膨大な計算処理が必要となります。ビデオカメラにはこの処理のためだけの専用のチップが搭載されており、多少電力消費量は増えますが、滞りなくファイル生成が可能です。しかしPCを使用してノンリニア編集(NLE)を行う際は、PCに実装されているCPUがこれを一手に担うことになりますが、カメラに実装された専用チップほどの性能を出すことが難しく、荷の重い処理となります。当然編集作業時の反応や動きは悪く、使い心地は良くなりません。

 そこでNLEソフトメーカー各社は、圧縮処理が軽いオリジナルのコーデックを開発し、作業中の一時ファイルの生成や保存に使用しているのです。素材や完パケ用としてではなく、編集の中間段階で使用することから、これは「中間コーデック」と呼ばれています。圧縮処理を軽くする代償としてファイルサイズが数倍に膨れ上がり、データレートも100〜200Mbps程度と大きくなりますが、データを保存するのがHDDになりますので、この欠点を吸収することが可能なのです。

 中間コーデックの例としては、NLEソフトの老舗であるAvidが使用するDNxHDコーデック(MXFファイル)、10年ほど前にAppleがFinal Cut Pro用に開発して人気が急上昇したProResコーデック(MOVファイル)、主にNHKが使用しているため民放にはあまり知られていませんが、さくら映機がPrunusで使用しているMPEG2-Iコーデックなどがあります。特にProResコーデックは単体ファイルで使い勝手がよいため独り歩きを始めており、素材収録用としてProResコーデックで記録する小型レコーダーが複数社から発売されています。またパナソニックのDVCPRO HDフォーマットでは、コーデックのライセンスが公開されており、I/O用のカードメーカーが採用している例もあります。

 残念なのは、ソニーがHDCAMのコーデック技術に関するライセンスを公開しておらず、ソニー以外のNLEシステムでHDCAMコーデックが使えないということです。取材と完パケの多くでHDCAMを使用する業界ですので、異なるコーデック間を行き来するロスを抑えるためにも、編集時にもHDCAMをベースに使い、一貫したコーデックとしたいところですが、大人の事情によりそれは不可能となっています。なおソニーのNLEシステム「Xpri」では、HDCAM VTRから圧縮信号ベースのデジタイズを行い、その後もHDCAMコーデックベースで編集・出力することが可能です。

※本連載は、昨年まで「デジタル時代に学ぶ〜ビデオ技術の基礎」として当サイトに掲載されていた連載記事を改題し、再構成したものです

[ファイルフォーマットの概要 その3へつづく]

[ファイルベース時代に学ぶ ビデオ技術(基礎編)]連載リスト
第1回:映像が動いて見えるしくみ
第2回:映像・音声信号の種類と伝送 その1 その2 その3
第3回:ファイルベースフォーマットの概要 その1 その2 その3


About 水城田 志郎

 旧日本ビクター(現JVCケンウッド)にて、ハイビジョンVTRやデジタルVTRの開発に従事する。その後独立して映像制作を行う傍ら、テクニカルライターとして業界誌への執筆活動を行い、解りやすい技術解説には定評がある。一方でNHK放送研修センターや放送系専門学校などで後進の育成にも努める。

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