4K漂流記〜東京藝大における事例・第4回
35mm 8Pフィルムのデジタイズ
7月初旬、編集室に35mmフィルムのデジタイズ装置を設置しました。株式会社AND Youの金子さんのご厚意によるものです。フィルムは映画用35mmがかかりますが、通常の映画の4パーフォレーションではなく、写真と同様にフィルムを横方向に送る8パーフォレーション、いわゆるビスタビジョンになります。
仕組みとしては、映写機の駆動部分とデジタルスチルカメラを組み合わせたもので、得られる画像は撮影するカメラに依存します。いまですとニコンD810などを搭載できれば、きっと物凄い画質を得られるでしょう。
通常の映画の4パーフォレーションをかけた場合、一度に2コマずつ撮り、後で切り出し回転させることになります。あるいは、フィルムを送っている歯車の回転を2分の1にして撮影部分を90度回転させてやれば4パーフォレーションに対応できるのですが、いまのところは、より手軽な前者の方式で対応していこうと考えています。
現在、運用について試行錯誤中です。もし35mmフィルム(8Pでも4Pでも)をお持ちで、ご協力いただける方がいらっしゃいましたらご連絡下さい。
だれでも簡単 DCPの作成
一昔前まで映画館の上映にはフィルムが使われていましたが、現在ではデジタル化によって、データに置き換わっています。一般の劇場で広く用いられているデジタルシネマ規格はDCI(Digital Cinema Initiatives, LLC)が策定しました。DCIはISOのような標準化機構ではなく、米国の大手映画会社の団体ですが、その米国の映画が市場において圧倒的な立場にあるため、事実上のデジタルシネマの国際標準となっています。
DCIのウェブサイトに行くと、次のように書かれています(http://www.dcimovies.com/)。「デジタルシネマイニシアティブLLC(DCI)は2002年3月に設立された、ディズニー、フォックス、パラマウント、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、ユニバーサル、ワーナー・ブラザース・スタジオによる合弁会社です。DCIの主な目的は、均一性と高いレベルの技術的性能、信頼性、品質管理を確保し、デジタルシネマにおけるオープン・アーキテクチャのための自主的な仕様を確立し、文書化することです。」
その通りに、DCIの定めたフォーマットであるDCP(Digital Cinema Package)は現在、フィルムに代わる映画作品のフォーマットとして世界各国で普及しています。もちろん日本国内でもです。そして映画館で使用されるDCI準拠の機材については、多数の日本のメーカーが携わっています。しかしながら、DCPの作成となると、日本語での情報はあまり多くないようです。
DCPを上映するとなればプロジェクタや音響システムなど劇場設備が必要になりますが、実はDCPを作成するだけなら特殊な設備を必要としません。パソコンとソフトウェアがあれば作成できます。フィルムの現像に必要な設備を思えば、とんでもない変化です。劇場で上映できるフォーマットを自宅でつくれるとは、自主制作にとって天国のような時代です。ただし、DCPが作成可能であるといっても、これはデータの処理が可能というだけであって、無論、きちんとした品質の映像と音響を実現するためには、色彩や音響の正しい調整作業が可能な設備を必要とします。
さて、DCPを生成するソフトウェアはいくつかあり、なかにはオープンソースのものもあります。今回は、そのうちの1つ、OpenDCPをご紹介します。GUIも機能も単純明快です(OpenDCP:http://www.opendcp.org/)。
DaVinci Resolve 11とOpenDCP
それでは以下、DaVinci Resolve 11から出力し、OpenDCPでDCPとして完成させるまでをご紹介します。なお、ここで使用しているのは有償版のDaVinci Resolve 11ですが、無料のLite版でも同様の事が可能です。
まずはDaVinciResolveから作業を始めます。
DaVinci Resolveから出力するため、画面下部から「デリバー」を選択します。
バージョン10から11になり、レイアウトが変更されています。左側のメニュー内にはDCPのためのプリセットが用意されています。設定は希望の解像度を選択するだけです。
出力結果はJPEG2000の連番ファイルになります。出力先はどこでも構わないのですが、わかりやすい名前のフォルダを用意することをお奨めします。
「レンダーキュー」に追加して、レンダリングを開始します。連番ファイルの作成は非常に時間のかかる作業になります。現在学校にある設備では、最大でも毎秒2〜4コマ程度の処理速度になります。つまり、24.00fpsの場合、最低でも6〜12倍以上の時間がかかることになります。
処理速度はコマの内容によって変わります。黒味や白味のように情報が少ない場合は非常に早く処理が進みますが、複雑なコマでは時間がかかります。先日、15分の短編のDCPを作成した際には、3時間弱の時間がかかりました。
DCP用なので色空間はRGBでなくXYZになっており、変な色で表示されてしまいます。もちろんDCPとして上映する際には問題ありません。
処理が終了すると連番ファイルができています。DaVinciResolveでの作業はここまでです。
次に、OpenDCPを起動します。
OpenDCPには、ビットマップやTIFFの静止画連番を読み込んでJPEG2000に変換する機能もあります。しかし今回はDaVinciResolveの出力の段階ですでにJPEG2000になっているので使いません。「MXF」タブに移り、先ほど作成したJPEG2000連番ファイルをMXFコンテナに詰め込む作業を行います。MXF設定の種別に「JPEG2000」を選択し、元となるファイルと、出力先のフォルダを指定します。
この作業はJPEG2000の出力と比べると、それほど時間はかかりません。
つぎに、音のファイルも同様にMXFにします。元素材はWAVファイル(リニアPCM、48kHz、24ビット)です。
音に関しては、24.00fpsと23.98fpsの違いに注意が必要です。DaVinciResolveから静止画連番ファイルとして書き出しているので、1コマが1つの静止画になっています。そのため、24.00fpsでも23.98fpsでも同じ数のファイルが出来上がります。ところが基本的にDCPには24.00fpsか48.00fpsしかないため、23.98fpsの音とは尺が合わなくなってしまいます。これを解消するためには0.1%だけ早送りさせて時間を調整したWAVファイルを用意する必要があります。
作品制作の準備段階で、もし技術的に 23.89fpsでも24.00fpsでも、どちらでも構わないという状況で、かつDCP上映を目論んでいる場合には、24.00fpsで作品を制作することをお勧めします。
元になるWAVファイルは1chずつ分けても、マルチでも構いません。ただしステレオ(2ch)であれば大丈夫かもしれませんが、それ以上(5.1chなど)になる場合、どのチャンネルがどこに割り当てられるのか混乱しがちなので、1chずつ分けて用意することをお勧めします。
音のMXF化は、先ほどの映像のと比べると、ずっと早く済みます。
これで音と映像それぞれのMXFが用意できました。
字幕は無いので一番右の「DCP」タブに進みます。先ほど用意したMXFを素材としてDCPを作成します。
まず名前を付けるために「タイトルジェネレータ」を開きます。DCPの命名には規則があり、「タイトルジェネレータ」では、それに則した名前をつけてくれます。
命名の規則は下記で公開されています。
Digital Cinema Naming Convention:http://digitalcinemanamingconvention.com/
映像と音と、それぞれのMXFの所在を指定します。MXFを指定すると、コマ数が表示されます。映像と音とでコマ数が異なる場合はエラー表示され、DCP作成ができません。
MXFのファイル操作について、移動するのかコピーするのかを選択できます。移動を選択した場合は処理が早く済みます。もし複数DCPを作成する必要がある場合にはコピーを選択します。
生成ボタンをクリックすると、DCPの保存先を尋ねるダイアログが現れます。フォルダを選択するとDCPの作成が始まります。
DCP作成の作業は以上です。
出力先に選択したフォルダ内には、先ほど作成した画と音それぞれのMXFファイルの他に、タイトル等の情報や素材のMXFについて記述したXMLが生成されています。DCPプレイヤで再生するには、フォルダごとファイルをDCPプレイヤにコピーします。
このように、OpenDCPを使えばDCPの作成は簡単です。KDM(Key Delivery Message 不正利用防止のための暗号化の仕組み)はないので、本格的な商業映画興行には向いていませんが、低予算の作品を映画祭に応募したり、信頼できる劇場で小規模に公開したりということでしたら、大いに活用できると思います。
DCPプレイヤーへの転送
DCPプレイヤにデータを送る方法は3通りあります(※注 現在、本大学視聴覚室に設置してあるDCPプレイヤーはDoremi Labs DCP-2K4です。他の機器では下記の説明と異なる場合があります)。
1つめは、一般的な外付けHDDをUSBで接続してコピーする方法です。
2つめは、おなじくHDDですが、CRU DX115を使う方法です。
3つめは、ネットワークで接続してFTPで送る方法です。
映画祭への応募や外部の劇場へかけるとなると、HDDで持ち込むことになります。DCPプレイヤー側で読めるHDDのファイルシステムには制限があり、DCP-2K4ではFAT、FAT32、ext2、ext3、HFSです。Windowsで使われるNTFSやMacOSXのHFS+は読めません。
これについて、他の多くのDCPプレイヤーでもext2、ext3には対応していますので、これらのどちらかであれば、おおよそ大丈夫です。DCPを受け付けている映画祭では、技術情報の文書内で規定されています。カンヌ国際映画祭の規定ではext3でフォーマットされたCRUでした。短編部門は4Gバイト以下であればFAT32のUSBメモリーでも可ですが、NTFSやHFS、2.5インチディスクのUSB接続は不可となっていました。なお、ext2とext3はLinuxで利用されているファイルシステムです。しかしWindowsもMacOSXも標準では対応していませんので、HDDへのコピー作業はLinuxで行う必要があります。
学内では3つめの、ネットワーク(1GbE)を繋いで、FTPで転送する方式をとっています。これならばOSを気にせず作業ができます。また速度や労力についても利点があります。DCP-2K4のポートはUSB2.0(480Mbps)なので、DCPの転送には結構な時間がかかってしまいます。CRUならばSATAで繋がり高速ですが、高価なため学内では運用していません。編集室は地下にあり、映写室は4階にあります。ポータブルHDDにコピーし、それを地下から4階まで持って上がり、HDDからDCPプレイヤーにコピーするよりも、早く省力に処理することができています。