爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ・第9回


アリフレックス(ARRIFLEX)16SR、Ⅱ

 

はじめに

 アリフレックス16SRは、アリフレックス16STで紹介した、ドイツの「ARNOLD & RICHTER」社が、フランス、イギリス連合のエクレールACL、アメリカのCP-16に対抗して、「アリが16mmノイズレスカメラをつくるとこうなる」という意地を示したようなカメラです。SRは1975年(写真1)、SRⅡは1982年の発売で(写真2)、エクレール、CPを研究し、満を持して発表されたイメージがあります(写真3)。

 SRはSRⅢ(1992年発売)からSRⅢHS(ハイスピード、5~150コマ)に進化し、スーパー16専用の416へバトンタッチされています。

概要

 大きさは、およそ、ボディの長さ30cm、高さ25cm、厚さ15cm。重さは、レンズ、400フィートフィルム、アクセサリーを含んで約8kgです。エクレールACLと比べて2回りほど大きく、重さも1.5倍ありますが、SRは400フィートフィルムが標準装備なので許容できる範囲です。「肩の上の太目のネコ」をイメージしてください(写真4)。

ボディ

 エクレールACLを大型にしたようなボディに、400フィートマガジンを支えるベースボードを取り付けたL型をしています(写真5)。SRには、プラスチックの丸型カバーのついた窓が1個(写真6)、SRⅡには2個付いています(写真7)。

 ボディには、左右どちらにも回転して動かせる「オリエンタブルファインダー」(どの角度に動かしてもファインダー像は水平のまま)が付属しています(写真8)。

 正面から見ると、上部からキャリーハンドル(アクセサリーを取り付けるネジが切ってあります)、ファインダー、アリバヨネットマウント(1本だけ固定されていて、ハードフロントと呼びます)、内部に回転ミラーとフィルムゲートがあり(写真9)、フィルム面とピントグラスに交互に像を送っています。最下部にはアクセサリー取り付けスロットがあります(写真10)。

 向かって右側には、内蔵露出計の設定パネル、手動フィルム送り回転ノブ、パワースイッチ(赤い小さなボタンはスロー回転ボタンで、フィルム装填が確実にできているか確認できます)、スタートレバーは1段下げると露出計のスイッチが入り、2段下げるとカメラがスタートします(写真11)。

 SRには露出計を内蔵したタイプと、内蔵していないタイプがあります(写真12)。

 撮影コマ数は24コマか25コマに固定されています。SRⅡになると、外部にスピードコントローラーが取り付き、75コマまで可変できるようになりました。取り付けは複雑怪奇で、サードパーティがSRⅡの内部にスピードコントロール機能を組み込んで販売していました(写真13)。メカニズムは毎秒150コマでも余裕を持たせた設計です。

 左側には、グリップを兼ねたレリーズスイッチを繋ぐ電気接点があるだけです(写真14)。

 後ろから見ると、ベースプレートの最後部に左から2個の外部入出力コネクターとキャノン4ピンパワーコネクターがあり(写真15)、オンボードバッテリー用のコネクターが取り付けられます(写真16〜18)。

 ボディ部には、フィルムゲート(レジピンとフィルム掻き落しピン/写真19)、その左にマガジン連動ギア、マガジン取り付けキャッチがあります。

 ボディだけだと、間抜けな形をしていますが、マガジンとレンズを装着すると、ネコが獰猛なトラに一変します(写真20)。

 視度調整をしてアイピース(アリ16STと同型)を覗くと、ピントグラスの中心に十字線、テレビ安全フレーム、フルフレームが表示され、もう一回り大きな斜線部にも像が見えるようになっていて、画面外の被写体を観察できるようになっています。左側には露出表示部がはみ出しています(写真21)。

マガジンとフィルム装填

 シネコダック、エクレールACLと同じ、フィルムを上下に重ねて収納する「コアキシャル」タイプです。後部から見て、右側に生フィルムを装填します(写真22)。

 コア巻き、スプール巻きどちらにも対応していますが、ほとんどコア巻きを使います。フィルム固定レバーを解除して、コア軸にフィルムを落とし込んで(写真23)、フィルム固定レバーを戻し、矢印の方向にあるスロットにフィルムを押し込みます(写真24)。エクレールACLのように手動でどんどん押し込むタイプではありません。スロットの内部にギアがあり、マガジン駆動ギアを回しながらパーフォレーションの位置を探り、ギアに咬ませて確実に送り込みます。蓋を閉めれば完了で、以後は明るい場所で装填できます。

 生フィルム室を出たフィルムの先端は、フィルムゲート部へ出ています(写真25)。先端を引っ張って、マガジンの裏面に延ばし、白い線に合わせます(写真26)。この長さが重要で、長くても短くてもフィルムループが正確に形成できません。

 その長さを保ったまま、ゲート下部のスロットに押し込みます。ここにもギアがありますから、慎重にパーフォレーションを合わせてギアを回します(写真27)。同じギアでフィルムを給送していますから、弛みの長さは変わることがありません(写真28)。

 左の撮影済み側の蓋を開け、フィルム固定レバーを解除して、巻き取りノブに挟んで固定し(写真29)、フィルム固定レバーを戻して、蓋を閉め、フィルム残数フィートカウンターを0に合わせます。フィルム固定レバーはマガジン上部のフィルム残フィートカウンターと連動していて、ここでもおよその残りフィート数を知ることができます。確実に残りフィート数を知ることができるように、二つのシステムを備えています。

 弛みを上下均等にして、フィルム掻き落しピンの位置「最上部」にきちんとパーフォレーションを合わせ、ゲートの固定金具でフィルムを固定します(写真30)。

 そのまま、マガジンをボディに装着すれば完了です(写真31)。マガジンロックレバーを前へ倒して、マガジンを固定します(写真32)。

 エクレールACLのように、ループが無くなって画面が流れる事故は、SRで経験したことはありません。また、ベースボードがマガジンをしっかりと支えていますから、マガジンが落下する事故も皆無です。ドイツ流の堅実な設計で、ACLの欠点を研究して設計したのでしょう。

レンズ

 アリ16SRと組み合わせるレンズは、ツァイスのバリオゾナー(VARIO-SONNAR)10~100mmで、開放F値、F1.8とF2.8があります(写真33)。小型のF2.8が先に発売されました。それまで、アンジェニュー12~120mmズームが世界のプロ用16mmズームの需要を独占していた感がありましたが、ツァイスが殴り込みをかけたレンズです。アリフレックス16STに装着して使いましたが、アンジェニューの細身に対して、太目でずんぐりしています。ワイド側が10mmなのは重宝しましたが、とんでもないことに、10mmは16mmスタンダード画面の四隅が僅かに暗くなります。発売当時、テレビ安全フレームで撮影することが常識化していましたし、16mm映写機のフレームで映写できない範囲でしたから大きな問題になりませんでしたが、ラッシュフィルムで密着プリントを見ると、気持ちの良いものではありません。

 また、レンズの後玉が、なんのガードも無く飛び出しています。マウントに装着するときに慌てて「コツン」とぶつけると、レンズの周辺が欠けます。当たり傷が多くなると廃棄されるケースもありました(写真34)。

 もう1つの欠点は、絞り羽根が3枚しかなく、絞った形が三角形になります(写真35)。当然、ボケも三角形でまったくひどいボケでした。ちなみに、初期のF1.2ハイスピード単焦点レンズシリーズも同じ3枚絞りのため、ボケが三角形で、ツァイスだと一目で判りました。これには世界中から非難されたらしく、短期間で製造を止めています。ただツァイスがつくっただけあって、色、ピントの切れはさすがです。

 アリ16SRの発売に合わせたように、大型で重いF1.8が発売されます。こちらは絞り羽根が5枚になり、いくらかボケが改善されましたし、後玉はガードの奥に引っ込んでいます(写真36)。SRには大きくて豪華なF1.8のほうがバランス良くなじみ、標準仕様になりました。これと、ワイドのディスタゴン(DISTAGON)8mmF2を持って、ロケに出たものです。

 SRになじむツァイスの単焦点レンズシリーズは、8、16、24、32、50、85mm(いずれもF2)がありました。レンズの評価に付いては、16mmカメラの連載後、改めて報告しようと考えています。

SRの時代

 SRが活躍していた同時期、ソニーのUマチック3/4インチVTRを使ったENGシステムが完成し、SRはTVニュース取材の現場では使われなくなっていきました。爺の会社は、主にPR映画やドキュメンタリーを制作していましたので、SRを長く使い、同時にテレビ番組の制作には、ENGシステムも併用していました。やがて、一体型のカムコーダー、ベータカムシステムが発売されると、ドキュメンタリーの主力もビデオに移って行きました。1970年代後半から、80年代はそんな時代でした。

 現在、SRを改めて見ると、16mmフィルムカメラの粋を集めて製造された、美しさと凄みを感じます。また、16mmフィルムの性能が各段に上がっていますから、何のストレスも無く幅5mに上映できます。爺も、たまにはSRを引っ張り出して、自由に撮影を楽しみたいものです。お若い方々、経験するならいまのうちですぞ(写真37)。

 次回は16mmカメラの最終回、CP-16Rです。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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