爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第11回


シネマ プロダクツ(CINEMA PRODUCTS)CP-16R

 

はじめに

 CP-16Rは、アメリカの「CINEMA PRODUCTS」社が製作したノイズレス同時録音用カメラです(写真1〜2)。

 インターネットで調べると、有限会社不二技術研究所のホームページの「懐かしき映画用カメラ」CP-16の紹介に、1972年製とあります。この製造年がCP-16を指すのか、レフレックス化されたCP-16Rを指すのかは不明です。ご存知の方はご教示ください。

 CP-16は原型が「AURICON」カメラで、古くからアメリカでニュース映画の同時録音に使われていました。AURICONを発展、洗練させたCP-16が発売されましたが、ミラーレフレックスではありませんでした。CP-16をミラーレフレックスに改造した機種がCP-16Rです(写真3)。

 磁気ストライプを塗布したリバーサルフィルムを使い、ボディ内に磁気ヘッドを組み込んで、カメラ自体で同時録音できるようにした派生型(こちらが本筋かも知れません)は、日本のニュース取材(プロ野球ニュース?)でも使われていたようです。ビデオカメラによるENG取材が一般化する以前、エクレールACL、アリフレックス16SR、CP-16Rはニュースや同時録音ドキュメンタリー取材のエースでした。

 爺も、この3機種をナグラ(NAGLA)オープンリールテープレコーダーと繋いで同時録音に使っていましたが、クオーツロックのカセットレコーダーが発売されると、映像と音声がずれなくなったので、マイクを叩くか、カチンコを撮影して同時録音に対処していました。現在ならICレコーダーで簡単に同時録音ができます。

CP-16Rのミラーとファインダーの違い

 16mmフィルムトライアルルームに動態保存しているCP-16R(No.2365)は、回転ミラーが1枚で最終型のようです(写真4)。

 シャッターの開口が大きく、低照度の露出がいくらか助かりました。爺がロスアンジェルスのCP社へ出向き、購入したものです。購入した直後、日本テレビの番組「明日の世界と日本」オーストラリアロケで初めて使いました。ミラーが2枚のタイプ(一世代旧型)もあります。旧型のファインダーは傾けると画像も傾くタイプでしたが、本機はファインダーがどの位置でも画像が傾かない「オリエンタブルファインダー」を組み合わせています。爺の所属していた日本シネセル株式会社はこの2台を併用していましたが、もう1台の所在は不明です。

 では、外観から見て行きましょう。

外観

 ボディから付属品を取り去ると、立方体の黒い箱です(写真5)。

 この姿を見るとAURICON以来、コンセプトは変わっていないように見えます。必要な機能を箱に組み込んだだけで、使い易いデザインとは無縁のようですが、肩に乗せると意外に安定します。ファインダーアイピース、400フィートマガジン、専用バッテリーを取り付けると準備完了で、アンジェニュー12〜120mmズームと400フィートマガジンにフィルムを装填して、重さは8kg弱です(写真6)。

■正面(マウント側)
 レンズマウントは、CP専用の3本爪のバヨネットで、ミッチェルBNCやアリPLマウントのように、リングを締め付けて固定するブリーチロック型です(写真7)。

 アリマウントアダプターを使って、多様なレンズが使えますが、迅速な交換のためには各レンズにアダプターを取り付ける必要があり、使用するレンズの本数分準備する必要がありました(写真8)。

 爺はズームに、アンジェニュー5.9mmかシュナイダーのシネゴン10mmと、200mm程度の望遠レンズを組み合わせて使っていました。

 正面から見て、右側にはファインダーアイピース、左にはバッテリースロット、左下にはハンドグリップ、その基部にはスタートスイッチ(写真9/押すと回転し、もう一度押すと止まります)があります(写真10)。

■後部(写真11
 上から、フィートカウンター、その左にコマ速度可変ノブ(毎秒12、16、20、24クリスタルロック、28、32、36コマが可変です)、隣にバッテリーチェックボタン、バッテリーチェッカー、左下にパイロトーン送出プラグ、隣にスタートスイッチがあります。

 右側にはボディ内の磁気ヘッドに音声を送る8ピンの大型コネクターが付いていますが、この機体には磁気ヘッドが装着されていないため、使いませんでした(写真12)。

■後部から見て右側面
 専用のバッテリーを収納するスロットがあるだけです。ボディの成型に合わせ一角を落とした黒い羊羹のような専用バッテリーを差し込むと、パチンとロックされます。専用バッテリーは20Vでニッカド電池を使用するタイプでしたが、リチウムポリマーバッテリーに変更して新規に製作しました(写真13〜14)。

■左側
 ファインダーアイピース取り付けネジとその隣にフィルムスタートランプ(24コマに達すると消えます)、フィルム装填用ドアがあるだけです(写真5、15参照)。

■上面(写真15

 右側にキャリーハンドル、フィルム巻取りローラーとOリングの巻き取りベルト(古くなると摩擦が減り、400フィートの終わりごろ、巻き取らなくなるトラブルがありましたから早目に交換したものです)、マガジン取り付けキャッチ、メジャー取り付けピンがあります(写真16)。

■底部
大小の三脚取り付けネジがあるだけです(写真17)。

 全体に無骨な外観ですが、操作に迷う部分はありません。

フィルム装填

 「摩訶不思議な装填経路」としかいいようがありません(写真18)。

 磁気ヘッドを取り付けるためのスペースを稼ぐ目的なのでしょうか(写真19〜21)。

 アリ16STより面倒ですが、肉眼で見ながら装填できます。フィルム送りには掻き落しピンがあるだけで、露光中にフィルムを固定するレジピンはありません。プレッシャープレートは取り外せて清掃が容易です(写真22)。

 フィルムゲートには丸いボールベアリングのような球があり、10ヶ所でフィルムを支えます(写真23)。

 ゲートに密着しない状態でフィルムが走行するため、細かい繊維ゴミの付着に対しては有利です。生フィルム装填後、最初のローラーがフィルムを直角以上に曲げているうえに、プレッシャープレートの固定バネが柔く、長時間回さないでいると、曲がり癖の付いた部分がゲートを通過する時にプレッシャープレートを跳ね上げて、ピントがフワリと甘くなります(写真24)。

 そのため、CP-16Rで撮影したラッシュフィルムは一目で判ります。瞬間を逃がさないよう早目にスタートスイッチを押す必要があり、アメリカ流の大らかさを実感します。

ゼラチンフィルターホルダー

 ボディ内部には、ゼラチンフィルターホルダーを2枚収納する場所があります(写真25)。

 ここから抜き出して、フィルムゲート横のスロットへ差し込んで使います(写真26)。

 非常に便利ですが、ここがCP-16Rの最大の欠点です。ホルダーはフィルム面に近い距離にセットされるため、清掃や交換を怠るとレンズを絞って撮影する場合、フィルターに付着した微細なゴミにピントが合ってしまい、400フィート丸々NGにしたケースがありました。その後、カメラマンは会社に顔を出せませんでした。

マガジン

 FRP製で、非常に軽くできていて、蓋はワンタッチで開閉できます。内部はビロードを貼りフィルムを保護しています(写真27〜28)。

 フィルム押さえローラーなどは一切ありません。400フィートフィルムの大きさそのままのスペースが生側、撮影済み側に設けてあり、小型化の工夫は皆無です。フィルム装填口は、アリ16SRのようなギアではなく、ビロードを巻いたローラーで遮光しています(写真29)。

 これらの布部分にはゴミや埃が付着し易く、フィルム装填の度に、ガムテープで清掃していました。また、400フィートマガジンが薄くて大きいので、風が強い日には煽られて、手持ち撮影に苦労した経験があります。体の大きなアメリカのカメラマンが振り回すには、これで問題ないのかもしれません。旧型のマガジンはアルミ鋳物製で、蓋を回して外すミッチェル型です。取り付け方法は同じなので、どちらも使えます。

ファインダーアイピースとピントグラス

 ファインダーアイピースは、上下左右、グニャグニャに曲がります(写真30〜31)。

 どの位置でもファインダー像が傾かない「オリエンタブル」ファインダーです。肩に乗せたカメラに合わせて、カメラマンの目の位置に正しくセットできます。これはどのカメラより調整が自由でした。ピントグラスは光ファイバーを四角に束にして成形したものです。確か、旧ミノルタが最初に開発し、ハッセルブラッド用のサードパーティ製もあったように覚えています。CP-16Rのファインダーアイピースとピントグラスは抜群に見易く、使い勝手の良い製品です。

ノイズレスカメラのお国柄

 大きい順に並べると、アメリカ製のCP-16R、ドイツ製のアリ16SR、イギリス、フランス連合のエクレールACLとなります。それぞれのお国柄を反映して、デザインも使い勝手もさまざまです。ノイズレスカメラを代表するこれらの3機種は、ビデオ以前の同時録音には不可欠のカメラでした。この時代のカメラマンは、制作会社の機材事情で市販やレンタルのあらゆるカメラを使いましたが、使いこなす必須の3機種だったのです(写真32)。

16mmフィルムカメラの将来

 16mmフィルムトライアルルームに動態保存している16mmカメラは、以上の8機種です。この他にも多様な16mmカメラが世界で使われてきました。デジタル全盛時代に「物好きにも16mmフィルムで映画を創作したい」という需要は極端に少なくなりましたが、フィルムを知らない世代の方々ほど「最終的にフィルムで映画を作りたい」と希望して、ルームを訪問することが多くなっています。

 16mmフィルムの製造が打ち切られるまで、16mmフィルムカメラを回せるように保存維持したいと考えています。

次回から

 最近のオールドレンズブームもようやく落ち着いてきたようです。映画を撮影するシネレンズは一般の読者諸氏にとっては馴染みがないようで、数本のレンズをシリーズで使って撮影するチャンスはほとんどありません。ルームに保存しているシネレンズシリーズがどんな傾向で、どんな性能を持っているか、を検証して行きたいと思っています。ご期待ください。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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