爺の遺言〜「シネレンズ」シリーズテスト番外編 : アンジェニュー50mm F0.95〜超大口径希少レンズの修復
爺は、法人や個人が廃棄しようとするフィルム映画用カメラやレンズを譲り受けて、整備、修復、動態保存を個人的に行っています。昨今の映像制作のデジタル化に伴って、歴史的なフィルム用機材が放置または廃棄されるケースが加速していると実感できます。
整備されていなかった機材を「どうすれば使える状態に戻せるのか」と考えることが「ボケ防止に役立っている」、と本人は思っていますが、家内や他人様には「ほとんどビョーキ」に見えるに違いありません。
このビョーキを治療しないでいると、時にはとんでもないカメラやレンズに出会うことがあります。今回は「プロでも一生に一度見ることができるか」という、超希少レンズの修復を報告しましょう。
なお、このレポートは日本映画テレビ技術協会(http://www.mpte.jp)が発行している「映画テレビ技術」誌とコラボレーションして執筆しました(2015年5月号掲載)。
レンズとの出会い
宇井事務所代表の宇井 忠幸(うい ただゆき)さんから、「不用レンズを処分したい」との連絡を受けて、足立区の宇井事務所に伺いました。
アイモマウントや土井マウントのアナモレンズなどを預かりましたが、その中に「どうしてもピントが合わないので、資料用にあげる」という注釈付きで、大きなレンズがありました(写真1)。それが「アンジェニュー(Angenieux)50mm F0.95[No.1249349]」です。製造番号からすると1970年製で、製造後45年を経た、ライカ版(36×24mm)をカバーするレンズです。
ライカ版用の超大口径レンズ「キヤノン(Canon)50mm F0.95」(1961年発売)や「ライツ ノクティルックス(Noctilux)50mm F1」(1975年発売)は中古が出回っていて実物を見ることができますが、アンジェニューは存在することすら知りませんでした。
製造年順で推定すると、キヤノン50mm F0.95に影響を受けてつくられたようで、非球面レンズは製造できなかった時代です。同じアンジェニューでも25mmと35mmのF0.95はCマウントで、16mmフィルム用です。
35mmフィルム映画用の超大口径レンズでは、スタンリー キューブリック監督の「バリー リンドン」で使われた「ツァイス プラナー(Planar)50mm F0.7」がありますが、市販されていません。もしこのレンズが市場に出たら、想像を絶する高価格で取り引きされるでしょう。
現行品では、コシナ製のマイクロフォーサーズ用で、ノクトン(Nokton)10.5mm(発売未定)、17.5mm、25mm、42.5mmのF0.95の4本。中国の中一光学から、APS-Cおよびマイクロフォーサーズ用のミタコン(Mitakon)35mm F0.95、ライカ版用のスピードマスター(Speedmaster)50mm F0.95。そして、ライツ製のノクティルックスM 50mm F0.95 ASPH(非球面)が販売されていて、超大口径レンズの市場を形成しています。
現在では、コンピュータによる設計、高屈折率の光学ガラス、非球面レンズの製造、高精度の工作機械が普及したので、超大口径でも高性能を目指して、多くのメーカーがF1を超えるレンズを製造できるようになりました。しかし、どのレンズも高価になることは避けられず、大量に売れる商品ではないので、少ロットで生産することはどの時代でも変わりません。
アンジェニュー50mm F0.95も「自社技術のシンボルレンズ」として、生産本数も極端に少なかったと推定できます。
ミステリー1〜レンズの状態
レンズにはフードのような筒が付いています。宇井さんの説明では、ここにアナモブロックが取り付けられていて、シネスコ用のレンズだったそうです(写真2)。マウントはミッチェルBNC。ピント合わせは回転ヘリコイド。
レンズを繰り出すにつれて鏡胴全体が回転するので(写真3)、先端のアナモも回転します。ピントを合わせるたびに、アナモの傾きを修整せざるを得ません。
また、アナモブロックのヘリコイドに連動してピントを合わせる機能も付いていないので、アナモブロックとマスターレンズのピントは別々に合わせるダブルフォーカスアナモだった想像できます。これでは非常に使いにくいレンズになってしまいます。
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりです。
しかし、アナモブロックは失われているので、レンズ本体を修復すればピントが合わない問題は解決するはずです。
分解して見なければ確実ではありませんが、オリジナルレンズの鏡胴を改造してミッチェルBNCマウントに組み込んでいるようです。前後のレンズ面や内部に傷やカビはなく、良いコンディションを保っているように見えます。レンズを持って、ゆっくり上下をひっくり返すと、鏡胴内部で「カタン」と音がして、内部のレンズが動いているのが見えます。
なるほど、この状態ではどこにもピントは合わないでしょう。
再びの関東カメラサービス
以前、海没したアンジェニュー5.9mm F1.8の再生作業を依頼したのが、瓜生 秀夫(うりゅう ひでお)社長率いる「株式会社関東カメラサービス」(以下、関東カメラサービス)でした。同社は昭和44年(1969年)の創業で、キヤノン、ニコン、ライカなどフィルムを使うマニュアルカメラや、レンズの修理が主な業務です。
2015年現在では、ご子息の瓜生 武志(うりゅう たけし)さんが事業を継承しています。
自社ビルの2階、修理受付を兼ねたショールームには、カメラを分解した部品をディスプレーした額や、独自に製作した修理に必要な部品が展示され、その部品を使って自社で完全整備した中古カメラや、委託されたカメラも販売しています。機械式フィルムカメラマニアは、「お宝」で目移りすることでしょう。
修復した5.9mmは現在も立派に使用に耐えていて、先日もアリフレックス16STやボレックスによる16mmフィルム撮影で活躍しました。
50mm F0.95mmも同じアンジェニュー製のレンズなので、2014年10月21日、関東カメラサービスへ持ち込みました。診断の結果、内部レンズのガタを修理し、レンズ全体のクリーニングも合わせてできることになり、依頼しました。期間は1カ月半程度。見積費用は15,000円(消費税別)でした。
以下は、修理を担当した山口 誠(やまぐち まこと)さんへのインタビューです。
—— こんな玉(アンジェニュー)を見たことがありますか?
山口「いや、初めてですね。レンズの修理を担当して10年くらい、入社して20年目です。ライカのレンズや、変わったレンズを修理した経験がありますが、その中でも初めてです」
—— 僕も、46年(映画撮影を)やってるけれど、初めて見たんです
山口「すごいですね。画角が広い(50mm)のに、コンマ95ですよね」
—— イメージサークルは広いですか?
山口「けっこう広めですね。中版くらい(6×6cm)あるのかなあ」
—— するとライカ版(36×24mm)は完全にカバーする?
山口「そうですね。大丈夫だと思います」
—— (修理は)難しかったですか?
山口「いえ。ただ変わった構造で。分解もされていたようです。後玉をビス4本で止めているんですが、4本とも付いていませんでした。それで後玉が下がってスペースが空き、ガタがありました。そんな観察をしてから、分解して組み直した、ということですね。レンズ部分に関しては普通の構造でした」
—— 先代の社長さんに伺ったんですが、映画のレンズはカシメてある玉があって、そうなってると分解できない、と
山口「枠にレンズがカシメてあるようなレンズは、後群のレンズがよくそうなってますね。それと、このレンズはヘリコイドにストッパーが付いてないんですよ。分解してその辺も見てみたんですが、形跡すらないんです。おそらく始めから付いていなかったんじゃないかと(注:ヘリコイドを近距離へ繰り出していくと、レンズが抜け落ちる構造になっている)。
横からビスで留めて固定して使っていたような痕があるんで、もしかすると、なにかカメラ側にフォーカスできる機構があるのかな、と思ってました」
—— わかりました! このレンズの先端にはリングが付いていて、シネスコ用のアナモレンズが付いていたんだそうです。ヘリコイドを回すと、レンズ全体が回転し、アナモも回転してしまうんで、マスターレンズのフォーカスは固定して使っていたんでしょう。アナモのヘリコイドでピントを合わせていたと、いまのお話で理解できました
山口「(後ろのレンズを)留めた痕みたいなものがいくつかあったんで、微調整して使っていたのかなあ、と」
—— アナモのヘリコイドでは、フォーカスを合わせる範囲が狭くなるので、必要なピント位置に応じて、マスターレンズの位置を調整していた、と考えられますね。今後、こんな映画の玉を持ち込まれたら(修理を)やりますか?
山口「ええ、よほど変なものでなければ。このくらいの構造のものであればおそらくできると思います。分解できれば、もちろん、もう一度組めますし」
—— 古い映画の玉は、内部が埃で汚れていたりするんですよ。清掃、修理できれば、特徴のある良い玉が使えるようになるので、「ここ(関東カメラサービス)ならできる」と紹介したいんです
(注:「修理を希望するレンズの状態を拝見してから、修理の可否を判断したい」とのこと)
(関東カメラサービスURL:http://www.kanto-cs.co.jp)
山口「クリーニングはできるだけやりましたが、どうしても残る部分があります」
—— 40年以上前の玉ですから、汚れが取り切れないのはしょうがないですね
(注:完全に奇麗にならないと、クレームを付けるアマチュアがいることは爺も承知していますが、修理のプロに「ここまでしか修復できない」と診断された場合には、無理を言わないこと)
平成26年(2014年)12月25日、修理は完了しました。料金は見積りのどおり、16,200円(消費税8%込み)でした(写真4)。
山口さんの所見から「マスターレンズのヘリコイドは適当な位置で固定されていて、アナモレンズのヘリコイドでピントを合わせていた」と推定できました。この方法なら、アナモは回転しないで済みますが、ピント合わせができる範囲は狭く、撮影距離に応じてマスターレンズを固定する位置を変えていたので、ビス痕が数カ所付いていたのでしょう。
BNC-E(ソニーNEX)マウントの製作
レンズが修復できたとなると、撮影して性能を検証するのがつぎの課題です。
BNCマウントは直径83mm。ミッチェル(Mitchell)BNC、BNCRカメラのマウントで、アリPLマウントの直径68mmに対して15mmも大きく、映画カメラのマウントとしては世界最大クラスです。50mm F0.95の大口径のレンズでも余裕をもってカメラボディに装着することができます。
本来ならミッチェルカメラに取り付けて、35mmフィルムで撮影すべきですが、ここはいつもどおりのテスト条件を採用するべく、NEX-7で撮影する方法を考えます。
BNCのフランジバックは約61.5mm。ソニーNEXのEマウントはフランジバックが18mmなので、その差を繋ぐことで、アダプターの製作に問題はありません。NEX-7のセンサーサイズは23.5×15.6mmと、35mmスタンダードフィルムの22×16mmより大きいので、レンズの周辺部の性能を確かめるのに都合が良く、またEマウントならば、ソニーα7シリーズにより、ライカ版と同じサイズのセンサーでも撮影できるので、BNC-E(NEX)マウントアダプターを製作することに決定。
宇井さんからステンレス製のミッチェルオリジナルBNCマウントをいただき(写真5)、Eマウントは、MUKカメラサービスの小菅 宗信(こすげ むねのぶ)社長からジャンク部品を譲っていただきました(写真6、7)。
この2つを結合するのは、三光映機の天野 光彦(あまの みつひこ)社長。
ミステリー2〜ところが
2014年12月26日、先行してマウントアダプターを製作していた天野社長から「仮組みが終わった」との連絡がありました。
三光映機の工作場を出て、街路で無限遠のチェックをしたところ、参考に持参した宇井さんのツアイス50mm F1.4のBNCマウントのレンズでは、距離目盛の15フィート付近が無限遠になってしまいました。「ちょっと手前過ぎる」と、天野社長が首を捻ります。つぎに、アンジェニュー50mm F0.95の無限遠を確かめるためにレンズ交換をすると、後玉が太すぎてマウント内部の部品に当たってしまい、装着不能。あえなく再調整となりました。
正確を期するため、宇井さんからお借りしたツァイスの35mmと50mm、そして今回のアンジェニュー50mm、計3本の無限遠を合わせることにしましたが、納得のいかない年越しとなりました。
ミステリー3〜フランジバックが違う
新年早々、天野社長から「ツアイスの2本はフランジバックがBNCと合致している。それを確認してマウントアダプターの内部を削り、アンジェニューの後玉が入るようにしたが、アンジェニューのフランジバックがBNCより長いので当惑している」との電話。
「アンジェニューのフランジバックにアダプターを合わせてもらえればよい」と即答しましたが、釈然としません。
そもそも、アンジェニュー50mm F0.95のフランジバックは、どのマウントに合わせて製造されたのでしょう。インターネットには、ライカMマウントに改造した例が載っています。
とすると、少なくともライカMマウントの27.8mmよりはフランジバックが長いことがわかります。キヤノン50mm F0.95はライカLマウントの外側に専用のマウントが取り付けられていますが、フランジバックはライカLマウントと同じ28.7mmです。アンジェニュー50mm F0.95もライカLマウント用なのでしょうか。
同時代のカメラでアンジェニューの交換レンズを採用していたのはエキザクタ(EXAKTA)やプラクティカ(PRAKTICA)M42がありますが、それらの交換レンズ一覧に50mm F0.95は載っていませんし、どちらのフランジバックも45mm前後で、ライカMマウントよりかなり長く、採用できなかったのかもしれません。
35mmのスチールカメラや映画カメラ全体を見渡しても、BNCよりフランジバックの長いカメラは存在しません。
ハタと思い当たったのは、後玉が固定されていなかったことです。旧型カメラで多数使われたテッサータイプレンズには、前玉を回転してピントを合わせる機能がありました。
少ない繰り出し量で無限遠から1m程度までピントを合わせることができます。とすると、後玉の間隔を変えることでフランジバックの調整ができ、それが行き過ぎるとBNCより長くなってしまうことが考えられます。レンズの上下をひっくり返すと後玉が動いていたのは、フランジバックを調整するためにわざと緩めたからでしょうか。
天野社長に伝えると「そこには気が付いていたが、なんとも言えない」との返事。
レンズ設計者と改造担当者の意見
前玉回転によるピント合わせは「レンズ間隔を変化させるに従って、収差も変動するので、レンズ性能も変化する」と、カメラ雑誌の解説記事にあります。とすると、フランジバック調整のために後玉の間隔を変化させると、レンズ性能もオリジナルと変わってくると思われます。
そこで、メガビジョンのレンズ設計者「柴田 隆則」(しばた たかのり)氏にご意見を伺いました。
「後玉を移動させてフランジバックを調整する方法は、聞いたことも、試したこともない。光学設計はレンズ全体で収差を補正し、フランジバックを設計するもので、構成するレンズを移動させたら、初期の性能は出ない。もし、それでも良い像が得られていれば理由がわからないので拝見したい」との意見でした。
もう1人、同レンズをライカMマウントに改造した、MS-OPTICAL社の「宮崎 貞安」(みやざき さだやす)氏にも所見を伺いました。
「普通、オリジナルレンズには、ヘリコイドが付属していない。およそのフランジバックは、28〜28.5mm程度なので、60mm以上のフランジバックに調整できるはずがない。もし、なんらかの方法でできたとしても、性能は保証されないだろう」
となると、性能を無視して改造されたレンズなのでしょうか。
光学界のエキスパートがお二人とも同じ意見ということは、これ以上の対策はないようです。天野社長にこのことを伝え「現在のフランジバックで無限遠が出ているなら、その数値でマウントアダプターを仕上げてもらいたい」と再度依頼しました。
マウントアダプターの形になる
2015年2月11日、天野社長から、「修正したマウントアダプターを仮組したので、カメラをもってきてほしい」との連絡を受けて見にいきました。
天野社長は「マイクロメーターに補助金具を製作して取り付け、フランジバックを正確に計測して、アダプターの中間リングを削り出した。そこで初めてコリメーターで無限遠が出ているのが確認できた」と、作業の苦労を語ります(写真8)。この長くなった中間リングのような部分を足すと(写真9)、巨大なマウントアダプターが組み上がりました(写真10)。
実物を見ると、マウントアダプターのフランジバックはアンジェニュー50mm F0.95専用の中間リングを含めて約87.5mmあり、BNCのフランジバックをはるかに超えています(中間リングは着脱が可能で、取り外して組み直すことにより、通常のBNCマウントのフランジバック61.5mmになります)。
早速、NEX-7に装着して無限遠の風景をチェックしたところ、感度200では、被写体が明る過ぎて、F0.95開放ではまったくシャッタースピードが足りません。なんとか、暗い部分を撮影して、それでも白く飛んでいる薄い画面を観察したところ、無限遠は合致しているように見えます(写真11)。その画面を確認して工作場に戻り、暗い被写体で撮影すると、ピントは合っているものの、盛大なフレアで、「ボアッ」とした画面になりました。F4程度に絞れば著しく改善されます。
「部品の内部がアルミのままだから、内面反射があるだろう。黒くアルマイト仕上げをして、マウントの隙間を塞げばフレアは改善されると思う。オリジナルレンズと比較しなければわからないが、フランジバックを調整するために、50mmに画角を合わせる縮小光学系のレンズを取り外してあるのではないか」と、天野社長の見解。
ともあれ、試写された画像は、筆者が経験したどのレンズにも「似ても似つかないが、非常に美しい」のが実感で、完成が益々楽しみになりました。
マウントアダプターが完成、そして実写
2015年2月25日、アルマイト仕上げを終え、組み立てられたマウントアダプターで試写を行いました(写真12)。
F0.95で撮影すると、フレアは初回の結果と同じような量でしたから、アダプター内の内面反射の影響とは言えません。また、いつものテストをする自宅付近の風景を撮影すると、50mmの撮影範囲ではありません(写真13)。
似たような画角のレンズを探すと、「シュナイダー シネクセノン100mm」とほぼ同じになりました(写真14)。「縮小光学系を取り外してある」という天野社長の見解が当たっているようで、フランジバックをなんらかの方法で伸ばしたために、焦点距離が2倍に伸びてしまったことを示しています。
また「イメージサークルが中判サイズくらいある」という山口さんの指摘は、イメージサークルも拡大されてしまった、とも考えられます。常識的には、画像拡大用のコンバーターレンズを設計してレンズ本体に追加することは困難なので「取り外したのが妥当」という結論です。
また、シュナイダーとアンジェニューの両画面を観察すると、シュナイダーは右の門のラインをきちんと再現していますが、アンジェニューはF8に絞っても、赤い色収差が残っていることも、どこかで無理をした結果なのかもしれません。
F0.95からF1.4、F2、F2.8、F4、F5.6へ絞りながら撮影すると、F2で、インターネットに載っているような写真に似たフレアの量の画質になりました。「レンズの焦点距離が2倍になり、イメージサークルも4倍の面積になっている」としたら、フレアや収差も4倍になっているために、4倍(2絞り)絞ったF2で本来のF0.95の性能と同等になっていることを示していないでしょうか(写真15〜20)。
また、F4に絞ると画質は急激に改善されます。この画面を、キヨハラ光学の「VK70R 70mm F5」ソフトフォーカスレンズと比べて見ると(写真21、22)、VK70Rは絞っても、ソフトな感じは残ったままなので、アンジェニュー50mm F0.95はソフトフォーカスレンズではないことがわかります(写真23)。
さらに、マウントアダプターをフランジバック61.5mmのBNCマウントに組み直して、ツァイスの50mm F1.4をF4に絞って撮影すると(写真24、25)、どれが優れた画質のレンズかは、一目でわかります。
先人の執念を感じたレンズ
あくまで爺の想像ですが、今回修復したレンズは「なんとしても映画カメラでアンジェニュー50mm F0.95を使いたい」という強い意志のもとに「性能を度外視してもつくり上げた」ものと感じられます。
現在では、デジタルカメラを使い、必要なマウントアダプターを購入すれば、改造しないオリジナルレンズのままで静止画も動画も撮影できます。このことは1970年代には想像もできなかったことで、「やむを得ずBNCマウントのフランジバックに適合するようにレンズを合わせた」のでしょう。
日が暮れて、点光源や車のテールライトをF0.95で撮影してみると(写真26、27)、1970年代の夢の中にいるような画面になります。率直に言えば「ここまで無茶苦茶なレンズ」を、プロがどのように使っていたかは想像の外ですが、爺が見ても間違いなく美しいと感じますし「性能だけでレンズを語ることは無意味だ」ということがよくわかります。
振り返ってみると、先人の執念でつくられたレンズを、推理小説を読み解くようにして修復してきた作業でした。
世界でたった1本のレンズ(?)を修復するために多くのエキスパートの手を煩わせました。特に、三光映機の天野社長には、毎度のことながら、爺のわがままを、根気よく、時にはキレながら聞いてもらい、完成に至りました。このように優秀な「職人」が残っているうちに、貴重な映画資産を次世代へ継承させることは、爺も「道楽」としか言いようがなく、例え「ビョーキ」と言われても治療できません。
さて、つぎのプロジェクトは?