ローランドVR-50HD〜多彩な映像と音声を1台で扱えるAVミクサー
本稿は2013年10月23日発売の月刊ビデオα(2013年11月号)に掲載した記事を再編集したものです。内容に掲載当時の情報が含まれていますので、あらかじめ御了承ください。
4スクリーン(スマートホン、タブレット、PC、テレビ)の高性能・高精細化が進み、映像を見る視聴側の環境が急激に向上している。インターネット配信では企業やイベントのクライアントがHDでの配信を依頼するのはもはや当たり前であり、また子供の運動会に先日参加した際には、デジタル一眼レフやハイエンドHDカメラなどの高性能機器が散見され、ハイビジョン映像の裾野が広く定着し、さらなるハイエンド化の移行を感じる一幕だった。
ローランドの「VR-50HD」は、この広く定着したハイビジョン映像を利用してこれから映像制作を始めようという企業・公共施設・インターネット配信業者など、幅広いユーザーをターゲットにしたマルチフォーマットAVミクサーである。
発売前のテスト機をお借りすることができたので、現行のシステム構成とどれだけの違いが出るか、より実践的な視点から検証を行ってみた(写真1、2)。
あらゆる映像素材に対応可能な入力端子群
まず入力系統から見ると、SDI/HDMI入力が各4系統、コンポーネント(RGB/YCC)入力が2系統、コンポジット入力(NTSC/PAL)が2系統と、充実のラインナップである。
他社の業務用スイッチャーでは、入力端子がSDIやHDMIに統一されているものが多く、拡張する際はオプションボードなどが必要な機器が大半である。そんな中、VR-50HDはオプションを追加せずともSDからHDへの移行、および混在システムの運用を完全に実現することができる、いわゆる「全部盛りAVミクサー」である。プロ仕様のカメラから一昔前の家庭用カメラに至るまで、コンバーターなどによる変換なしで入力することが可能だ(写真3)。
これらの入力の中から4つのソースを自由に事前選択し、本体右下のセレクトボタンならびに右上の7型タッチパネルモニターでPGM列のスイッチングを行うことができる。
SDとHDの混在システムにおいて最も気になる点といえば「アップコンバートの性能」であるが、信号処理は4:2:2/10ビットで行っており、実際他社のコンバーター製品と比較してもまったく遜色がない。現在所有しているSDカメラやDVDなどのアナログ機器を無駄にすることなくHD制作にシフトすることが可能だ(写真4)。
また、最近になってHDMI出力端子搭載のPCも普及しているが、いまだD-sub15ピンやDVI出力のPCも少なくない。さらにVTR送出でも、企業のプロモーション映像やゲーム画面など、コピーガード信号(HDCP)が付加されているHDMI素材も多い。出演者の使用するPCの指定ができず、当日現場に入って苦労されている技術者も多いのではないだろうか。
VR-50HDではPCのXGA出力を直接入力することができるほか、別途変換ケーブルを使用することでPC以外の信号(RGB/YCC)にも対応する。DVIやHDMIといったデジタル信号であればHDMI入力端子にコネクター変換のみで入力でき、また信号のカラースペースおよびスケーリング(画角調整)もタッチパネルのメニュー操作で各チャンネル毎に設定変更が可能だ。
コピーガード信号(HDCP)に関しても設定メニュー内の[HDCP]ボタンのON/OFFにより、他の映像信号と同様にスイッチングすることができる。ただし著作権物の二次的なコピー防止のため、HDCP対応モード時の出力はHDMI端子のみとなる。タッチパネル下の[HDCP]ランプが点灯し、対応モードのON/OFF確認は視覚的にも分かりやすくなっているが、運用前にかならず確認をお忘れなく。
新たなビジネスチャンスを生み出す放送規格外の信号出力系統
クライアントの要望に応じて最も変化が伴うのが出力系統である。VR-50HDはSDI/HDMI/コンポーネント(RGB/YCC)出力が各2系統ずつ装備されている (写真5)。
各出力はPGM-BusとAUX-Busの2種類の信号いずれかを選択することができる(写真6)。フォーマットは480i/480p/576i/576p/720p/1080i/1080p、システムフレームレートは59.94Hzと50Hzの2種類、アスペクト比は4:3と16:9に変更が可能だ。ここまではごく一般的なスイッチャーと大差はない。
しかし、VR-50HDにはHDMI/コンポーネント出力に特化した、放送機器にはないPC解像度フォーマットが多数用意されている(1024×768/1280×720/1280×800/1280×1024/1400×1050/1920×1080)。企業の会議室やイベントで使用されている業務用のプロジェクターはPCからの入力を想定しているものが多く、実際、放送機器で構成されたシステムではスイッチャー出力をプロジェクターの画角サイズにスケーリングし、プロジェクターの入力端子に再変換する必要がある。この変換/出力のために別途映像技術会社が入る現場もあるほどなので、本機の導入によっていままでの収録/配信業務に加え、プロジェクター出力業務といった新たなビジネスチャンスを得るきっかけになるかもしれない。
また既設の機器として運用すれば一括運用による大幅なコストカットが期待できる。いずれにしても費用対効果の高いコンテンツ制作が可能となるだろう。
さらにライブ配信や収録(ファイルベース)に便利なUSB出力端子も装備している。このUSB出力は専用の出力スケーラーをもつので独自の解像度とフレームレートの設定が可能だ(写真7)。イベント自体の映像はハイビジョン(1080i)、アーカイブ用の収録データはSD(480p)といった目的に合わせた運用が本機1台で確立できる。USB3.0なら非圧縮のフルHD1080/59.94p、USB2.0でも720/29.97pでパソコンへダイレクト出力が可能である。UVC(USB Video Class/Audio Class)に対応しているため、配信エンコードを行うPCにUSBデバイスがあれば問題なく入力することが可能だ。
また、USB出力をPCで収録する専用ソフトウェア「Video Capture for VR」も無償ダウンロード可能である(写真8)。もちろん、これらの設定もすべて本体右上の7型タッチパネルモニターで行うことができる。設定の切り替えやパラメーターの調整は本体パネル上のボタンやフェーダーと連動しているので、初めてスイッチングやセットアップを行う方にはタッチパネルによるスイッチング・調整のほうがより分かりやすく、直感的な操作が可能だと思われる。ぜひ、お試しいただきたい。
収録・配信を超え、簡易PAまで可能な本格的なオーディオミクサー機能
つぎに音声機能に目を向けてみると、さすが音響機器メーカーのローランドといったところだろうか。マイク入力が4系統(XLR/TRS両対応)、ステレオ対応のLINE入力がRCA端子2系統とTRS端子2系統を装備、合計で12chの音声入力対応可能なデジタルオーディオミクサーを搭載している(写真9)。
各入力チャンネルに対してコンプレッサー、ノイズゲート、3バンドEQ、ディレーといった本格的なデジタルエフェクトを装備、1-4chのマイク入力にはファンタム電源(+48V)がチャンネルごとに装備されている。簡易的なミクサーだと、このあたりが省略されがちなのだが非常に丁寧なつくりになっている(写真10)。
選択中のチャンネルに対応してオーディオフェーダー上の[SETUP]ボタンが点灯し、いまどの音源の調整をしているのか視覚的に把握できるのは非常にわかりやすい。さらに出力側にはマスターリング、3バンドEQ、リバーブ機能も装備している。
また、SDIやHDMIに多重されている音声を5-12chのステレオ入力にアサインすることが可能だ。カメラ側で多重されたマイク音声やHDMIによる映像出しの音声など別途音声ケーブルを布線することなくミクシングすることができる。ただし、1-4chの映像入力(SDI/HDMI)の配置に追従する形になっているのでフェーダーの配置には充分な注意が必要だ。
音響メーカーならではの本格的な機能が並ぶ中、特に注目したのが音声のディレー機能である。自前のマイク機器とイベント会場のPAなど、外部からのもらい音声との間で発生するディレーも入力段階で調整することができる。さらにこのディレー機能はUSB出力系統にも独立して装備されていて、配信や収録において映像との間で発生する遅延に関しても調整が可能となっている。
マスター出力は収録・配信用、AUX出力はPA(会場音響)用といったように、用途に合わせた映像音声の細やかな調整ができるのは、双方のコンテンツのクォリティの向上に大きく貢献するに違いないだろう。
ユーザーの目線に立ったこだわり
豊富な入出力を誇るVR-50HDであるが、なにより特筆すべき点はスイッチャーへの入力、あるいは出力の系統において変換機器をほとんど介さずにシステムが成立する点である。どんなに優秀な機材であってもあくまで「機械」なので、なんらかの要因による不具合や障害を100%回避することは現実的には困難だろう。可能な限り余計な機材を間に入れないことは結果的にシステム全体の安定化へつながるのだ。
また、本機の全端子は筐体に対してしっかりとネジ止め固定がなされていて、抜けやすい、接触不良が多いといわれるHDMI端子に関しても別途固定アダプターを使用することで筐体への固定が可能だ。端子1つをとってもわれわれユーザーの目線に立ったメーカーエンジニアの細やかな配慮が感じられる。
この点は各社製品の価格に応じて非常に大きく差が出るところでもある。小型で汎用性の高い機材の場合、既設機器に比べて端子の抜き差しや運搬の頻度が高くなり、経年劣化・疲労を引き起こす原因となる。映像機器、とりわけスイッチャーは決して更新頻度の高い機材ではないため、運用期間中の修理・交換はできる限り避けたいものである。機器の堅牢性は結果として長期的な安定運用を可能にし、機材メーカーへの大きな信用へと繋がるに違いない。
同様に電源に関してもメーカーのこだわりが強く感じられた。VR-50HDは専用のACアダプターと派別に汎用性の高いXLR4ピンの電源入力(9-16V)を装備している。電源の二重化はホールや発電機といった不安定電源下での運用に必要不可欠である。ただ、無停電装置などの導入は鉛電池の定期的な交換など、コストもかかり中々導入に踏み切れない技術会社も多い。
本機であれば身近にあるカメラバッテリーなどを流用することで簡易的なバックアップ電源を構築することができる。これは消費電流2.5A(DC24V時)という驚異的な省電力設計が可能としていることであり、バッテリー駆動でスイッチャーが動いてしまうのだ。ここにもメーカーの高い技術力が感じられた。
公共施設やホテル、学校といった場での映像・音響設備の更新・入れ替えの際、現状設備のさまざまな制限内に新規導入機器を納めることが必要不可欠となってくる。主に電源容量や既設ケーブルの再利用などである。
VR-50HDの特徴でもある映像と音声を一括して管理・運用ができるコストパフォーマンスの高さと信号の入出力における機器対応力の幅広さ、これはユーザーの現状のシステム環境を壊すことなく、その上でハイビジョンという新たなコンテンツを導入するには正にうってつけの機材である。
また専門的なスタッフのいない現場であればあるほど、タッチパネルでの直感的な操作が不可欠となってくる。担当するオペレーターにとって操作しやすいシステムこそが誤操作の危険性を軽減し、より安定的な機器運用を可能とする。本機の導入によって現顧客の維持・確保と共に新たなビジネスチャンスを得るきっかけになるに違いないだろう。
価格:¥80万(税別)
発売:2013年10月
問い合わせ先:ローランド RSG営業部 TEL03-3251-5071
URL:http://www.roland.co.jp/solution/