Blackmagic Production Camera 4K〜4K撮影/編集をシンプルに
いよいよ発売になったBlackmagicの4Kシネマカメラ
Blackmagic Design(以下、BMD)がカメラを発売するようになって、早1年半が経過した。もともとキャプチャーカードやコンバーターといった映像周辺機器をメインの商品としていたBMDだったが、価格破壊ともいえるほどのビジネスモデルで競合商品に対抗する「ズバリ」な製品をつぎつぎと市場にリリースし、一躍だれもが知る映像機器メーカーになった。
いまでは広範な製品をラインナップしており、カラーグレーディングツールである「DaVinci Resolve」は業界のスタンダードの地位を確立するなど、4Kやデジタルシネマをキーワードに、さらなる飛躍を遂げている。
昨年のNAB Showで発表になったBlackmagic Cinema Camera(以下、BMCC)の4Kバージョンともいえる「Blackmagic Production Camera 4K」(以下、BMPC4K)が遂に発売になった(写真1)。いつになるかと首を長くして待っていたユーザーも多かったはずだ。
それもそのはず、今回のこのカメラにはさらなる期待が込められていると言っても過言ではない。数あるカメラメーカーがつぎつぎと4Kのカメラを発表する中、このカメラがもつポテンシャルはおそらく「驚異的」であると多くの人が感じているだろう。
現在のバージョンでは、まだ予定どおりのスペックを持ち合わせていないものの、常にファームウェアを進化させるBMDの戦略はすでに大きな信頼を勝ち得ている。
まず一番の魅力はなんといっても価格だ。驚いたのは発売直前になって、BMDはこのカメラの価格を¥10万近く下げ、現状では¥30万を切る価格で販売しているところもある(2014年3月時点)。
しかもカメラには¥10万相当のDaVinci Resolveのドングルが同梱されており、結局のところ「4Kシネマカメラが¥20万」という、世にも恐ろしいことが起きてしまっているのだ。企業にとっての固定資産を考えても¥30万を下回るというのは大きな意味をもつことにもなり、正直これには驚きが隠せない。
スーパー35mmセンサー&グローバルシャッターを装備
もちろんスペックも素晴らしい。到底¥20万のカメラとは思えない内容だ。一番の特徴はセンサーサイズがついに「スーパー35mm」になったことだ(写真2)。BMCCではEFマウントが使えたものの、やはりセンサーサイズが小さくてワイドの画づくりが難しく、レンズのやりくりに苦労したカメラマンも多かった。
BMPC4Kはスーパー35mmのセンサーサイズということで、いよいよ他社のシネマカメラと肩をならべる仕様になったのではないだろうか。さらに驚きなのが、なんと「グローバルシャッター」を搭載しているということだ。あのソニーPMW-F55レベルのカメラでしか手に入れられないグローバルシャッターを実現してしまうとは…夢のような話である。
手ブレや早い動きなどになると発生する、いわゆるローリングシャッター(動体歪)は特に大判センサーの大きな弱点ともいわれている。改めてシネマカメラとしての完成度の高さには評価が集まることだろう(写真3、4)。
大きさや形状はそのままに、中身が大きく4Kに進化
BMPC4KはBMCCとまったく同じ「筐体」を踏襲している。そのためBMCCのためにつくられた数多くの周辺機器がそのまま使えるというのが嬉しい。特にリグに関しては使い回しができるため、カメラ本体を買うだけでBMCCのユーザーは実用的な撮影を行える。
BMDのカメラは、購入したカメラ単体では残念ながら即撮影というわけにはいかない。内蔵バッテリーがほとんど使用できないことや、リグとの併用がマストであったり、収録用のSSDやレンズなどを合わせると相応の価格になってしまうのが現状だ。
BMPC4Kでは、収録メディアとして使用するSSDや外部給電のためのバッテリーモジュール、あるいはEVFのシステムなど、基本的にはBMCCで使っていたものを活用できるのが面白いところだ。「4K」で収録できるBMCCこそがBMPC4Kなのだ。
2014年2月末日時点のスペックを紹介しよう。おそらくファームウェアがどんどん上がっていくことが予想されるため、まだ未実装の機能も多々ある。
たとえばRAW収録はまだできない。現状としてProRes 422(HQ)の4KとHDの2種類に対して23.98fps、24fps、25fps、29.27fps、30fpsのフレームレートで撮影が可能だ(写真5)。発表されているスペックには60iというインターレースの仕様も予定されているようで、映画のみならず、同社が発売する4Kのスイッチャ—などと併せて「放送」という分野もカバーする意気込みのようだ。
また、通常のビデオルックのほか、「BMD FILM」というフィルムルックのLOG記録も搭載し、BMCCよりも1ストップ少ない12ストップのダイナミクスレンジをもっている。
4K出力にも対応しており、6G-SDI規格で勝負
BMDが採用する4Kは、同社の6G-SDIのプロトコルも併せてUltraHD(3840×2160)に統一されている。規格としては1本のSDIで4Kの映像伝送を可能にした技術なのだが、高画質の映像制作をHD同様のワークフローで組めるのが大きな特徴だ。
BMPC4KのSDI出力も、通常のHD-SDIと4Kの6G-SDIを選べるようになっており、すでに4Kのモニタリングや映像伝送が可能になっている。しかし6G-SDIは、まだ各メーカー間で汎用的な仕様になっていないため、モニタリングに関してはいまのところ6G-SDIから4K-HDMIへ変換するする同社のMini Converter SDI to HDMI 4Kを使うことになるだろう。それにしてもこのカメラは4Kというスペックをしっかりと押さえた、素晴らしい1台であるといえる。
ちなみにProRes 422(HQ)の4Kコーデックは、おおよそ700〜800Mbpsのビットレートをもっている。10ビット4:2:2という高い画質なため相応の大きさであるといえるだろう。1時間の収録で350Gバイト近くのファイルサイズとなるため、ファイルコピーなどには相応の時間が必要で、われわれはIntel製の530シリーズSSDを収録メディアで使用し、480Gバイトで75分程度の記録に対応した(写真6)。
SSDに関しては同社のHPで対応一覧があるので参考にするといいだろう。Intel 530の480Gバイトに関してはリストにはなかったが、信頼性を重視して採用した。
4K収録のワンマンオペレーションでも恐れることはない
待ちに待ったBMPC4Kであるが、実際の撮影をしてみないことには、その能力は未知数である。BMCCと同様の使い勝手で、撮影から納品までのワークフローを行うことができるのか検証を行った。
今回、弦楽四重奏の演奏を192kHz/24ビットというハイレゾオーディオ収録する機会があり、その演奏風景をBMPC4Kで撮影し、オーディオのハイレゾと映像のハイレゾを組み合わせた映像制作をする機会を得た(写真7)。
まず撮影前日の機材準備の段階で、4K用として特別に追加するアクセサリーがなく、BMCCの撮影スタイルをそのまま踏襲することができた。新たなカメラが登場するたびに、工夫を凝らして撮影スタイルをつくり上げていくことも楽しいが、今回はなにもせず、あたかもBMCCの機材準備をしているのと同じように行った。
機材セッティングとしては、前述したように内蔵バッテリーがデフォルトになるため、外部電源を供給するためにもリグを使用して撮影をする必要性があり、VIEW FACTORのリグをそのままBMPC4Kに移し替えた。
また、背面液晶はどうしても視認性が低く、カメラマンのメインモニターとして使用するには心もとないため、普段から使用しているCineroidのEVFを導入し、カメラマンのメインモニターとして用意した。その際にカメラのSDI出力から映像信号を受けるわけだが、SDI出力の解像度をBMPC4Kでは4KとHDの2つから選択できるようになっている。もちろん6G-SDI信号を受けることができる4Kモニターがない限り、HD出力が基本となるであろう(写真8)。
さて、カメラマンにとって「4K収録」といわれて真っ先に気になるのが、「フォーカシング」でないだろうか。4Kという大きな解像度はフォーカシングをよりシビアにし、フォーカスの甘さは4Kモニターで見ると顕著になってしまう。4KからHDにダウンコンすれば多少紛れるところではあるが、やはりその甘さは否めない。だからこそ4Kとフォーカシングは切り離すことができない。
EFマウントの4Kカメラというと、EOS-1D CやEpic(EFマウント)などが上げられるが、どのカメラでもフォーカシングはシビアである。4K収録でワンマンでオペレーションをすることももちろんあり、開角度の狭さはフォーカシングをよりシビアにし、カメラマンにとっては酷な作業となることは間違いない。
さらに付け加えると、BMCCはフォーサーズセンサー搭載で、ボケ具合もボケすぎずフォーカシングは割と楽ではあったものの、BMPC4Kではスーパー35mmセンサーになったため、BMCCと同じ感覚でフォーカシングをすると、ミスをする可能性は大きい(写真9)。
と、ここまでフォーカシングの厳しさをお伝えしたが、実はBMPC4Kには優秀なフォーカスアシスト機能のフォーカスピーキングがあるだ。
BMDのカメラに搭載されたフォーカスピーキングは視認性、そして精度が高く、BMCCを使用していたころは多いに助けられた。もちろん、ピーキングは背面液晶だけではなく、外部出力にも設定できるので、外部モニターでも正確なフォーカシングが可能だ。
特にわれわれはCineroidのEVFを使用する機会が多いが、その小さなモニターでも意外とピーキングを確認できる。さらに今回は、監視業務を別スタッフが7型モニターで行い、フォーカスや露出を常に確認したため、時間に余裕がない現場でもフォーカスミスは見られなかった(写真10、11)。
BMPC4Kでシンプルに4K収録/編集を
BMCCの機能はそのままに、4K収録に対応したBMPC4Kは、結果からいうと期待以上の能力をもったカメラであった。
BMCCの形状を引き継いだことによるアクセサリーの流用、さらにはProRes 422(HQ) 4Kコーデックの高精細さ、ProResという中間コーデックによる編集ワークフローの無駄のなさなど、撮影から編集までのワークフローで難しいことを一切排除したシステムだ。カメラ1台で、シンプルに4K収録/編集を行えるワンパッケージのカメラだといえよう。
また、BMPC4Kはすでに2回のファームウェアのアップデートが行われている。発売直後もあり今後も頻繁に行われる可能性もあるため、こまめにHPをチェックするといいだろう。
価格:¥31万2800(税別)
発売:2014年2月10日
URL:http://www.blackmagicdesign.com/jp
後日発売予定の電子書籍版「月刊ビデオα」では、ワンマンオペレーションによる運用の詳細など、Blackmagic Production Camera 4Kのさらに詳しい内容を、テストレポートとして掲載予定です。