Avid Artist|DNxIO〜4K編集のワークフローを高速化するビデオI/Oインターフェース
前編の掲載から、かなり間が空いてしまったが、後編ではAvidの最新BOB(Break Out Box) “Artist|DNxIO”を取り上げる。Media ComposerとDNxIOを組み合わせたときの挙動について紹介しよう。
そして、4Kコンテンツの制作に意欲的に取り組む先駆的な地上波テレビ局 “名古屋テレビ” を紹介する。
Avid Artist|DNxIOによる4Kメディアのキャプチャー
Avid Artist|DNxIO(以下、DNxIO)は、Blackmagic Designから発売中のキャプチャー&再生ソリューションUltraStudio 4K Extremeをベースに開発された、Avidのオープンビデオ入出力規格(Avid Open I/O)に準拠する最新の標準ビデオインターフェースだ(写真1)。
DNxIOでも、SD・HD・2K、さらにUHD&4Kまでのレゾリューションをカバーし、それぞれのビデオフォーマット映像のキャプチャー&再生が行える。
また現在4K機器の接続には、使用するケーブルの本数が異なるいろいろな接続方式(3G-SDI[2/4本]、6G-SDI[1/2本]、12G-SDI[1本])が存在しているものの、DNxIOはこれらすべての接続方式に対応する(写真2)。
つまり、DNxIOがあればMedia Composer(以下、MC)システムは、いわばSDから4Kまでをカバーするメディアセンターと化す(表1)。
DNxIOは、ベースマシーンのUltraStudio 4K Extremeと同様、たとえばAdobe Premiere Pro CCやAfter Effects CC、Blackmagic Design Davinci Resolveなど、他社製ノンリニアアプリケーションからビデオI/Oインターフェースとして利用することが可能だ。
ただしDNxIOには、Media Composerのキャプチャーツールやオーディオパンチインツールにハードウェアレベルで対応するようなカスタマイズ機能が搭載され、さらにDNxHR専用のコーデックチップもインストールされている。したがってMedia Composerでの使用を前提とする場合、DNxIOを購入する必要があるだろう。
筆者は、DNxIOで4Kメディアのキャプチャーをぜひ実体験したかった。そこでビデオα編集部の協力のもと、アビッドテクノロジーを訪問、Blackmagic DesignのディスクレコーダーHyperDeck Studio Proをレクチャールームに持ち込み、キャプチャーテストを行ってみた(写真3、4)。
HyperDeck Studio Proは、6G-SDI、クアッドSDI、HDMI経由で最高UHD2160/30pまでの4K出力が行える。このHyperDeck Studio ProをDNxIOに接続し、MCのキャプチャーツールを使ってキャプチャーテストを行ってみた。
MCの起動時、Avid OpenI/Oに準拠するBOBがシステムに認識されると、起動後、ビデオI/O設定は専用のサードパーティー製設定ツールが起動するように切り替わる。DNxIOでは、Blackmagic Desktop Video Utilityが起動する(写真5)。
キャプチャーツールを起動すると、ビデオとオーディオ入力ソースに”Artist|DNxIO”と表示され、DNxIOが正しく認識されていることが確認できた。だが、これ以外、DNxIOの接続によってキャプチャーツールが通常から大きく変わっている箇所は見当たらなかった(写真6)。
ところでDNxIOは、発売後のファームウェアバージョンアップで、DNxHR LBのハードウェアエンコーディングがサポートされるようになった。これは、CPUに高い負荷がかかる高圧縮コーデックをハードウェアが代行するという意味だ。
そこで、CPUパフォーマンスメーターを開きながら、DNxHR LBとDNxHR SQのキャプチャーを行ってみた。
結果を見ると、たしかにDNxIOがハードウェアエンコードするDNxHR LBコーデックのほうが、CPU使用率は低く抑えられていることがわかった。しかしながら、ソフトウェアエンコードするDNxHR SQコーデックのCPUパワー消費量は、測定によれば、たかだか17%とかなり低い。
筆者は、DNxHR LBコーデックとDNxHR SQコーデックのCPU消費量の差はたかだか数%しかないことにも驚いたが、そもそもキャプチャーで消費するCPUパワーが意外に高くないことに着目したい(写真7)。
さて、同じ素材をDNxLR LB、SQ、HQコーデックでそれぞれ30秒間キャプチャーし、各コーデックによるファイルサイズを比べてみた。
DNxHR LBコーデックでキャプチャーした30秒間のメディアサイズはおよそ700Mバイトになった。SQコーデックではその約3倍の2.1Gバイト、HQコーデックでは約4.7倍の3.3Gバイトほどのファイルサイズになった(写真8)。
ここで、DNxHR SQコーデックの画質はDNxHD145相当、DNxHR HQコーデックの画質はDNxHD220相当に等しい。つまり、SQ/HQコーデックの画質は、われわれがHDのオンラインでよく知っている画質感を保っている。
肉眼では、DNxHR SQコーデックとDNxHR HQコーデックの画質の違いを見極めるのは難しい。一方、LBコーデックでキャプチャーした映像はさすがにブロックノイズが目立つ。用途が限られる画質だ。キャプチャーされた画質を見比べてみて、DNxHR SQは、4Kコンテンツ編集の標準コーデックと感じられた(写真9〜12)。
ところで、DNxIOでキャプチャーテストを行いながら感じたことだが、前述したように編集メディアがファイルベースに変わりつつある現在、編集室でキャプチャーツールをオープンする機会はかなり減ってきてしまっている。
今後4Kコンテンツが編集室のメインフォーマットになれば、キャプチャーツールの登場はさらに皆無となり、果たして、DNxIOの4Kキャプチャー機能は本当に必要なのか、と筆者はギモンをもっていた。ところが、今回実際にキャプチャーを体験してみると、その考えは少しばかり変わった。
というのも、4Kには、さまざまなフレームレート・フレームサイズが混在する。さらに記録フォーマットも多様だ。中にはAMA対応していないものも少なからず存在する。そんな場合には、ファイル変換アプリを利用してメディアを変換、その後MCに取り込む…という作業を行うことになるだろう。
だが、もしDNxIOがあれば、キャプチャーツールでキャプチャーするほうが、変換アプリを起動したりフォーマット問題を気にせず、編集室らしい「ノリ」の良い編集が行えるのではないか?
また、ディレクターが撮影した民生用カメラ素材から、一部のみをシーケンスに追加編集するような編集においても、カメラをDNxIOにHDMIで接続し、必要な部分だけキャプチャーする作業をファイル変換アプリと併用すれば、「あの編集室は4Kをよくわかっている」と編集室の信頼を増す評価につながるのではないだろうか?
そんなわけで、筆者は、今後の編集室においても、DNxIOの4Kキャプチャー機能は、まだまだ存在価値のある機能だと実感した次第だ。
最後に、DNxIOのファームウェアであるDesktop Videoの更新は、Blackmagic Designから供給される(https://www.blackmagicdesign.com/jp/support)。アップデートによってバグフィックスや機能の改良が期待できるので、システム担当者には最新情報に気を配ったこまめなアップデートをお薦めする。
名古屋テレビ4K編集室紹介
最近筆者は、自身が籍を置く地上波テレビ業界において、どういう理由からか4Kコンテンツの制作に関する話題が、また賑やかになってきたなと感じている。
そこで最後に、他社・他地域に先駆け、いち早くAvid Media Composer+DNxIOによる4K編集システムを導入し、4Kコンテンツ制作づくりに取り組んでいる、名古屋テレビ(メ〜テレ)の4K編集室を紹介したい。
名古屋テレビに4K編集室が完成したのは、2015年9月。局内のオンライン編集室は全5室あり、うち4K対応編集室は1室だ。
4K編集室新設の経緯について、名古屋テレビ技術局の長田さんは、
「2013年に現社長をリーダーに次世代放送の会議組織が発足、まず4Kカメラの導入によって、イベント撮影や番組収録を重ね4K収録に関する経験を積んできた。当社はコンテンツメーカーとしての立ち位置から4K制作に取り組んでいたが、外部に4K編集を依頼したのでは、編集ノウハウがメ〜テレには積み上がらない。やらないとわからない、実感を伴う経験が抜け落ちているという意見が挙がった。そこで、局内で撮影収録から編集、最終仕上げまで行う4K番組の局内一貫制作体制にこだわって構築するに至った」
と語る。
名古屋テレビの4K編集システムは、Avid Media Composer+Symphonyオプション(ホストマシーンHP z840)だ。このマシーンにBOB(Break Out Box)としてDNxIO、ストレージとしてISIS|5500(32Tバイト)が接続される。
アビッドテクノロジーによれば、DNxIOは昨年の日本国内発売以来100台以上が出荷されている。しかしその中で、4Kコンテンツの制作を第1目的にDNxIOを導入した事業所はまだまだ少ないという。名古屋テレビのチャレンジはまさに先駆的だ。
今回、4K編集システムとしてAvid Media Composerを選択した理由は、長田さんによると、
「4K編集システムは、局内の既存HD編集設備とのスムーズな運用を強く意識して選定した。またシステムの選定に当たって、編集システムは、4K専用ではなく “4Kも” 編集できることを選定の主要条件に据えた」
ということである。
地上波テレビ局にとって、この “4Kも” という視点からのシステム選定はとても重要だ。このように考えてシステム構築すれば、システムのすべてを4K対応にする必要がなくなり、システム構築に柔軟性をもたせられる。
名古屋テレビのエリア圏内には、伊勢神宮や東山動物園を初め、4Kコンテンツとしてアーカイブする価値の高いソースが豊富にある。地の利を活かした4Kコンテンツ制作が進められている。
名古屋テレビ4K編集室から産み出された初の4Kコンテンツは、ダンス番組「BOMBER-E ダンスナイトSP」だ。この番組は、字幕テロップも4Kフォーマット上で焼き付け、全編4Kフォーマットで編集作業が行われた(完パケ後、番組はHDにダウンコンバートされ、名古屋テレビとCS放送にてオンエアー)。
HDR制作に関する取り組みも積極的だ。
東山動物園を舞台に制作された番組、HDR版「4Kどうぶつ劇場」では、Premiereで編集したシーケンスをXMLでDaVinciに渡しタイムラインを再現、DaVinciでグレーディングを実施。DaVinci からMXFで書き出したビデオファイルとMA済みのオーディオファイルをPremiereにインポートし完パケを制作するというワークフローを実践している(収録はS-Log3/UHD59.94pで行われた)。
運用スタッフのみなさんも、今後HDRは4Kコンテンツの主流になる、と考えており、Media Composer→DaVinci Resolveのワークフローだけでなく、DaVinciからMedia Composerへ戻るようなワークフローの模索も積極的に行われているようだ。Media Composerが果たしたHDR対応は、名古屋テレビのみなさんにとっても大変待ち望まれた新機能だ。
名古屋テレビのみなさんからお話を伺って、筆者は、技術局・運用スタッフのみなさんが、共に楽しみながら4Kコンテンツ制作のノウハウ蓄積に努めていることにとても良い印象をもった。
収録フォーマットがどんどん4K化していく現在、編集室内のメインフォーマットはやはり4Kでなくてはならない。これからの編集室は4Kメディアを、放送や通信など通信パスに合わせ、必要なフォーマットへ変換するメディアセンターとしての役割を果たすべきだ。今回名古屋テレビの4K編集室を見学して、筆者はそう実感した。
mmbi跡地問題によって、4Kは地上波テレビ放送とは無縁とも言えなくなってきた。またHDRは今後、4Kコンテンツの主流に成長しそうな勢いだ。
今後、編集システムの4K化は避けては通れない話題になるだろう。
価格:Artist|DNxIO単体;¥48万6000(税込) ※2016年9月16日までの期間限定となるが、Artist|DNxIOを購入するとMedia ComposerのProduction Pack(プラグインセット)が無償でバンドルされるスペシャルオファーが実施されている(http://blog.avid-jp.com/avid_japan_video_blog/2016/07/artist-dnxiomed-aa4c.html)
メーカー製品(Artist|DNxIO)情報URL:http://www.avid.com/products/artist-dnxio
ディーラーリスト:http://connect.avid.com/reseller_locator_JP.html