朋栄FT-ONE〜フル4Kによる最大900コマ/秒のスーパースロー撮影
本稿は2013年10月23日発売の月刊ビデオα(2013年11月号)に掲載した記事を再編集したものです。内容に掲載当時の情報が含まれていますので、あらかじめ御了承ください。
映画、CM、プロモーションビデオなどのクリエイティブの世界はもちろん、スポーツコンテンツを初めとするライブプロダクションの世界でも4K映像制作への取り組みが始まり、4Kに対する注目度は大きくなっている。
朋栄では、4Kに対する関心が高まる少し前から、他社にない独創性の高い製品を生み出すべく、映画製作でも使用可能な高画質な4K対応高速度カメラをつくろうという目標を掲げて、開発を始めた。
その結果、さまざまな困難を乗り越え、正に世界初となる、フル4K(4096×2160)解像度で秒間最大900コマまでのスーパースロー撮影を実現する高速度カメラ「FT-ONE」を開発することができた(写真1)。
FT1-CMOS〜スーパー35㎜相当のフル4K解像度/高感度センサー
4K高速度撮影を実現するためには、まずセンサーの開発から着手する必要があった。求められる応答速度、転送速度など、さまざまな条件を課した研究開発により、「FT1-CMOS」と命名したフル4K解像度/高感度グローバルシャッター方式を採用したCMOSカラーセンサーの開発に成功した。スーパー35㎜相当の大型センサーにより、撮影感度と高速撮影という、相反する条件の両立を実現している(写真2)。
FT1-CMOSは12ビットの階調をもち、11ストップの高ダイナミックレンジを有している。センサー感度は高速度カメラでありながらISO 640を有し、ノイズの少ない安定した撮影を実現している。
高速記録の内部メモリーと大容量のSSDカートリッジ
撮影した映像はRAWデータとして内部メモリー(RAM)に高速記録される(表1)。内部メモリーは1つの保存領域として利用する以外に、録画領域を分割することで同時録画/再生に対応している。分割領域は、2分割から16分割に対応し、撮影した映像を残したままつぎの撮影を行える(図1)。任意の録画済みメモリー領域の映像を再生しながら、別の領域に新しいシーンの録画を行うことも可能だ。
FT-ONEは電源投入時から映像を内部メモリーへ常時録画しており、トリガーを押した時点で保存する動作を行う。トリガーは、スタート、センター、エンドを搭載しており、高速撮影には必須といえる。再生時には再生範囲を設定し、必要な箇所だけを再生することもできる。
そして、内部メモリーに記録されたデータは、オプションにて提供しているSSDカートリッジ「FT-ONE2T」へデータ移管することができる。このSSDカートリッジは本体内に2台まで実装可能で、合計15万枚(900コマ/秒の映像データで168秒)相当のデータ蓄積が行える(写真3)。ホットスワップ対応なので、コピーの終わったSSDカートリッジを取り外し、別のSSDカートリッジに入れ替えながら撮影を継続することも可能である。
4Kライブプロダクションに有効な機能
ビデオ出力部としては、QFHD(3840×2160)リアルタイム出力を有しており、4本の3G-SDIを利用して、撮影映像を60コマ/秒でのプログレッシブ映像で出力できる(写真4)。スロー再生時にはスロー映像に自動的に切り替わる。
このビデオ出力部には、一般的なR/G/Bの3原色による色補正の枠を超える12軸カラーコレクション機能を搭載。現場でのシーンの色合わせや別のカメラとの色調整も簡単に実現する。色補正機能はビデオ出力にのみ反映するもので、メモリー内のRAWデータには影響しない。
また、出力端子はもう1系統装備されており(HD-SDI×2)、4Kサイズの映像をHD-SDIサイズにダウンコンバートして出力できるので、ビューファインダーやプレビュー用モニターの接続に利用可能である。
(編集部注)朋栄は2013年11月、FT-ONEのラインナップとして、映像・各種信号を光カメラケ-ブルを使用して長距離伝送可能なモデル「FT-ONE-OPT」を発表している。
同モデルは、光ファイバー1本で12本分の3G/HD-SDI信号を送受信可能となっており、FT-ONEへの電源供給も行える(最長1km)。オプションのFT-1BS(光ファイバーベースステーション)を接続することで、長距離の映像伝送が必要となる屋外中継やスタジオシステムカメラとして使用することが可能である。
FT-ONEの運用をサポートする豊富なオプション群
■FT-1RU
FT-ONEの録画/再生設定をスムーズに行うための、専用リモートコントロールユニット(写真5)タッチパネルを搭載。スムーズなカメラセッティングと録画映像の再生が可能。再生制御用にフェーダとロータリーエン コーダを搭載したFT-1RUAも用意している。
■FT-1RCP
FT-ONEのカメラパラメーターコントロールを行うための、専用リモートコントロールユニット(写真6)。ライブプロダクション用途での利用拡大に伴い、2013 NAB Showにて発表し、追加したオプションで、通常のカメラコントロールパネルと同様の操作環境を提供する。
アイリスやペデスタル、ゲイン調整などが専用のボタンにアサインされているため、直感的でスムーズな調整ができる。FT-1RUとの併用が可能なため、VEによる映像調整と録画/再生オペレーターの操作を分けることが可能となる。アイリス調整部をダイアル仕様とした FT-1RCP-Jも用意している。
■FT-1READ
FT-ONEの内部メモリーおよびSSDカートリッジには12ビット階調のRAWデータが記録されてが、現状ではFT-ONE RAWデータのままポストプロダクション処理を行えるパスがないため、カラーグレーディングや編集工程へ進めるためにはRAWデータから汎用ファイルへの変換が必要となる。
そこで、FT-ONEのオプションとして、DPX変換コンバーターFT-1READを用意(写真7)。各種パラメーター設定が可能な現像工程を経て、汎用DPXファイルへ変換を実現する。
■FT-1 CDS
SSDカートリッジを汎用PCへ接続するためのドッキングステーション。USB3.0経由でSSDカートリッジ内のデータを簡単にPCや外付けHDD/SSDなどへコピーできる。バッテリーマウントを装備しており、屋外での使用も可能
スロー映像でも4Kから切り出しHDで出力可能
FT-ONEを4Kコンテンツとして利用する以外に、スポーツリプレー用途で4K解像度の中から一部を切り出して表示する切り出し用途で活用しよう、という動きが加速している(写真8)。高速度という時間の分解能と、4Kという高解像度の両方の特性を有するカメラの特徴を活かした制作手法ということで注目いただいている。
(編集部注)朋栄は2013年11月、FT-ONEの周辺機器として、ズームエクストラクションシステム「ZE-ONE」を発表し、Inter BEE 2013の同社ブースでも大々的にデモンストレーションを行ってアピールした。
ZE-ONEは、直観的なタッチパネル操作で、4K映像の中から任意のサイズで切り出しポイントを設定し、HD映像として出力することが可能(1080/60p×4のQFHD入力を1080iまたは720pとして出力)。FT-ONEと組み合わせれば、スロー再生時に複数のキーポイントに対して、異なるサイズ(倍率)で切り出しポイントを設定でき、ズームインしながらのスロー再生など、動きのあるズーム効果も実現できる。
通常はライブカメラとして撮影を行いながら、決定的瞬間はスロー映像として記録、リプレイシーンとして活用する際には、撮影した映像の一部分を拡大表示し再生することで、HD撮影では実現できなかった映像を提供することができる。切り出しシステムは、今後のスポーツリプレーでもさらに注目される映像手法となると考えている。
実際に、複数のスポーツイベントにおいてFT-ONEを用いた切り出しシステムが活用され、高精細4K映像の一部分を切り出して放送コンテンツとしてオンエアーされた。切り出した映像はHD解像度となるため、既存の放送設備においても即座にコンテンツとして活用できる点が特長となる。
もちろん、4Kカメラ映像の切り出しという点だけを考えれば、各社が製品化している4Kカメラでも切り出し映像に活用することができるが、FT-ONEからの切り出し映像はスロー映像となる点が大きく異なる。スロー映像を提供できることで、決定的瞬間を逃さず、詳細に確認することができるという点で現状では唯一対応した4Kカメラであるといえる。
また、4K解像度からHD解像度を切り出しても画質の劣化がないことを活用し、若干広めの映像を撮影しておくことで、通常のズーム撮影では画角から外れてしまうような選手の動きやかけひきを残しておくことができる点もスポーツ撮影において画期的な撮影手法となり得ると考えている。
また、切り出し映像やスロー再生としての利用だけでなく、FT-ONEで撮影したままの映像がダウンコンバートされ、オンエアーにも活用された。FT-ONEはハイスピード撮影専用機ではなく、通常のライブカメラとしても充分活用可能なスペックを有していることを示した例でもある。
FT-ONEの活用例
■ライブ収録用途
スポーツイベントの中継、収録など、決定的瞬間のリプレーでの活用が期待される。また、特殊撮影カメラでありながらライブ映像を常時出力しており、優れた色再現性をもっていることから通常カメラの1台として組み込むことができる。その際、本体内に搭載された12軸カラーコレクション機能を活用し、他のカメラとの色合わせも容易に行える。
■DI(Digital Intermediate)用途
映画など、カラーグレーディングやポストプロダクションを前提としたコンテンツにおいては、RAWデータからの現像処理、データ処理が基本で、FT-1READを用いて汎用ファイルに変換後にポストプロダクション処理を行うワークフローとなる。将来的には、一般的なシネマカメラと同様にFT-ONE RAWデータのままグレーディング処理や合成処理、ノンリニア編集を行えることを目指している。
FT-ONEの特徴は、4K高速度撮影ができるという単一の特徴だけではなく、RAWデータのまま記録ができ、さらにライブ映像ならびに撮影した映像に対してカラーコレクションを施し、出力可能なビデオプロセス部も有している点にある。
4Kの一般的な普及に向けては、制作側だけでなく、受像機、プレーヤー、レコーダーなど一般家庭への浸透も前提になるが、SDからHDへ移行したときと同じように、HDから4Kへの動きも、まずは制作側から加速していくことが予想される。映画を中心としたDCI規格での4K制作だけでなく、ベースバンドにおける4K(QFHD)解像度での制作の動きが加速していく中で、その両方に対応したFT-ONEの存在は4Kコンテンツの制作という面で存在価値を発揮していくことができると期待している。
時間の分解能と映像の解像度の両方を実現したFT-ONEの存在が、4K映像の普及、さらには4Kコンテンツ普及の一助になれば幸いである。
問い合わせ先:朋栄・営業統括本部 TEL03-3446-3121
URL:http://www.for-a.co.jp/products/ftone/ftone.html