オタク 手塚一佳のKOBA 2014レポート
2014年5月20日から4日間にわたって、韓国ソウル特別市COEX展示場において、KOBA 2014(Korea International Broadcasting, Audio & Lighting Equipment Show 2014)が開催された。同ショーはNAB直後の大規模アジアショーということで、NABで発表された実製品に触れる機会を得られるショーとして注目を集めている。今回は同ショーの概要をお送りしたい。
Join the UHD world..
今回のKOBA 2014のテーマは「Join the UHD world..」。UHD、つまりはQFHD 3840×2160。日本や米国でいうところの4Kの世界へ入ろう、というもの。そのテーマの通りさまざまな4K機器があたりまえに展示されていて、すでに4Kというだけでは珍しくなくなっていることも一目でわかる展示であった。
ただし、韓国は元からウォン高による大不況なうえ、セウォル号の沈没事件で全体的に鎮魂ムードであり、さらに会場のCOEXもショッピングモールが工事中で閉鎖されており、そもそも人出がかなり少ない。そのため。出展を見合わせたり、あるいは派手なイベントを自粛したブースも多かった。その結果、あれ、この企業のブースは? と思う向きもあるとは思うが、そういう事情があるということでご容赦いただきたい。
AJAブースはCION実機展示!
このブースでは、なによりも、4Kカメラといえば欠かせないAJAの期待の新星、AJA CIONからご紹介したい。
CIONはご存じの通り、NAB2014で突如発表されたAJA社初のシネマカメラだ。いままで変換・収録機を中心につくってきた同社としては、初のカメラ本体発売となる。性能はNABのときと変わらず、4K APS-C CMOSセンサー、グローバル電子シャッター、カメラ本体のAJA Pak mediaにはProRes422で4K 60fps、True 4K(4096×2160)サイズのProRes4444で30fps、外部出力ではThunderbolt端子から4K 30fpsのRAW出力、そして3G-SDI端子からは4K 120fpsものRAW出力に対応している。もちろん、センサーにはIRフィルタやローパスフィルタもちゃんと装着されており、低価格カメラにありがちなモアレや偽色とも無縁だ。本格的でちゃんと実用に耐える本物のシネマカメラだといえる。しかもそれで、値段は米ドルで8995ドル。さまざまなウッドや皮などを使ったRIG機器もオフィシャルで用意されており、それを購入するだけですぐに使うことができる。デザインも優れており、しかも重量もベータ機で6ポンドと極めて軽量だ。遠隔操作も内臓のWebサーバーでiPadのWebブラウザーなどから行うことができ、極めて容易だ。低価格で本格映画を撮ることの多い韓国市場にはもってこいのカメラだといえるだろう。
KOBA2014では、残念ながら初日は展示が間に合わなかったが、2日目にはブースに実機展示が置かれ、自由に触ることができるようになっていた。
このAJA CIONのレンズマウントはPLマウントであり、そもそもキヤノンの一眼動画から始まったこうした低価格シネマカメラではEFマウントが標準、という流れが変わりつつあるのを感じることができた。実際、KOBA場内で売っていた韓国産の安価なシネマレンズの数々も、そのどれもがPLマウントのものを展示するように変わってきており、安価なシネマカメラの世界では、EFマウントが絶対的な標準ではなくなりつつあることが見て取れる。日本人としては日本発のマウントであるEFマウントをなんとか推したいところだが、電子絞りの制御の問題が、こうした低価格カメラにPLマウントを選ばせているようだ。とはいえ、まだまだEFマウントの手頃さにかなうPLマウントレンズは登場していない。PLマウントではどうしてもレンズが高価になるため、CIONでもEFマウント機の登場などに期待したいところだ。
CIONは6月にハリウッドで行われるCine Gear2014でも続報があるそうなので、楽しみだ。
ATOMOSブースでは、SHOGUN登場
ATOMOSブースでは、従来のNINJA2(HDMI HDレコーダーモニター)、RONIN(マウントラック HDレコーダーモニター)、NINJA BLADE(HDMI ウェーブフォーム付きHDレコーダーモニター)などのほか、NABで発表された新製品のNINJA Star(HDMIモニター無し超小型レコーダー)、そしてSHOGUN(4K HDMI SDI レコーダーモニター)が展示されていた。
なかでもやはり注目はNINJA StarとSHOGUNであり、NINJA Starはラジコンヘリなどに搭載する空撮用として、SHOGUNはソニーα7SやパナソニックDMC-GH4と接続する4K収録兼カメラアシスタント用モニターとして、それぞれ注目を集めていた。
低価格撮影が多い韓国では、同社のレコーダーモニターは欠かせない存在となっているようだ。ユーザーからの本気の質問が飛び交う、熱いブースとなっていた。
ARRIブースではAMIRAも展示
ARRIブースでは、従来の定番のARRI ALEXAシリーズだけでなく、新型の中価格帯カメラAMIRAの展示も行っていた。
結局、最終的なプライスとしては400万円代中盤からと、個人ユーザーにでの届く価格ではなくなったAMIRAではあるが、フィルム交換ができないデジタル機では欠かせないNDフィルターまで内蔵したそのオールインワンパッケージは魅力的で、映画関係者や大作ドラマ関係者を大勢集めていた(標準ではProRes422のRes709のフルHD撮影までしかできず、ライセンス購入でProResHQ以上の収録やLog C撮影、200fpsまでのはいフレームレート撮影、フル2K撮影などが可能となるようになっている)。
結局、映画の世界スタンダードはいまもなおARRIのカメラであり、そのブースがこの不況下でもこうやって健在であるところが、韓国の映画・大作ドラマ業界が世界市場を狙っていることを明確に示しているといえるだろう。
池上ブースでは、8Kのテスト展示
池上ブースでは、4Kモニターを田の字に配置して、8K映像のテストショットを流していた。NABでは映像展示は無かったため、このKOBA2014で、ついに池上も8K映像を一般に展示したことになる。
その横にはNHKで使用されていた8Kカメラが展示され、注目を集めていた。世界の中では珍しく、韓国でも日本と同様、4Kの次には8Kが想定されている。そのため、池上のこの展示は、多くの韓国業界人の注目を集めていたようだ。
Libec(平和精機工業)ブース
Libecブースでは、NABで発表されたばかりのスライダー付き三脚キットALLEX の実機展示が行われていた。韓国では三脚メーカーこそ弱いものの、数多くのRIGメーカーが存在しており、レールキットなどは安価で高性能なものが多数存在し、まさにその本場といえる。そうしたレールの本場に三脚メーカーが乗り込んだのだからその話題性はかなりのものであった。
特にALLEXは、従来のスライダーとは異なり、抵抗を無くすのではなくグリス封入ボールベアリングによって三脚と馴染みの良い抵抗感を敢えて出しており、それによって、スムーズな滑り出しと停止感を実現している。こうした方式はもちろんスライダーでは初めてのことで、それが三脚とセットでの開発という話題性もあり、その世界戦略価格での発売もあいまって大変な注目を集めていた。韓国のスライダー展示がやたらとモーターやコントローラーなどのハイテク性を前面にした展示をしていたのも、このALLEXを意識してのことであろう。
夏の発売が楽しみである。
朋栄ブースでは、ハイスピード4K展示
朋栄ブースでは、同社製ハイスピード4Kカメラ、FT-ONEによるハイスピード撮影実演展示を中心としたブース展開を行っていた。
なかでもNAB新発表の「FT-ONE-OPT」は、FT-ONEの光コントローラーであり、これによって簡単に現場にベースを組むことができるようになっていた。日本のようにまだ実験段階ではなく、映画向けに実際に4K撮影をすることの多い韓国では、こうした実用的な提案は大いに受けることだろう。
Cineroidブースはなぜか静かに
日本でもRetinaEVFや小型なLEDライトなどで有名なCineroidブースでは、今回もRetinaEVFや調光可能なLEDライトなどの展示を行っていた。
同社製EVFがAJA CIONのデモ機に採用されていることもあって、大変な人気かと思いきや、いつも通りの落ち着いた展示であった。聞けば、AJA CIONにデモ機採用されたとはいえ、別にCION販売時にCineroidRetinaEVFがキット販売されるわけではなく、また、同社のEVFはその唯一性のためすでに必要な人は購入済みであるところから、こうした落ち着いた展示になっているという。 企業や製品の知名度に比べてあまりに小さなブースで、日本など海外からの訪問者は、うっかり見逃してしまうのではないかと思えるほどだ。
いま力を入れているのは調光可能なLEDとのことで、さまざまなLED業務照明機器が展示されていた。
TV Logicでは、業務用DCI 4Kモニター展示が!
韓国のモニタメーカーTV Logicでは、ついに、業務用の31インチDCI 4K(4096×2160)モニターLUM-300A/Wの展示を行っていた。10ビットIPSパネル搭載で、60fpsまでの表示に対応。3D-LUTによる色補正機能やオーディオレベルメーターまで搭載しており、高い色再現性を誇るという。実機を見たが、確かに見事な発色性能を誇っていた。
すでにこのモニタは発売済みで、その市場価格は日本円で約300万円弱。日本メーカーの同サイズ業務モニターの値段とほぼ同じか若干安いくらいだという。これは、安さが売りの同社の路線とは一風異なるハイエンド路線であり、ついに4Kが本格化して、TV Logic社もこうしたハイエンド方向に乗り出してきた、ということになる。
映画やドラマ産業が盛んな韓国では、4KといえばDCIであり、こうしたDCIモニターが売れる環境なのだ。そうした国内需要に支えられてのハイエンド商品の展開は、地に足が付いたものだといえるであろう。
写真12 TVLogicのブースは4Kを機にハイエンドモニターにも乗りだしてきた
写真13 LUM-300A/Wは、10bit IPSパネル搭載というまさにハイエンドな性能。いままで日本メーカーの専売ともいえたラインについに進出してきた
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さて、このようにざっとかいつまんでいくつかのブースを見てきたが、いずれも、4Kにフォーカスしたブースばかりであった。
これは単に展示会のテーマというだけではなく、映画や連続ドラマなどのコンテンツを海外に販売している関係上、韓国ではすでに4Kがあたりまえになりつつあり、なかでも世界標準のDCI 4K(4096×2160)の必要性が格段に高まっている、ということなのであろう。
それに対して、韓国政府はあくまでもテレビ放送のUHD(3840×2160)にこだわっており、ここにも、日本同様、政府や官僚と制作現場との温度差、必要機能の違いが見て取れた。
しかし、実際の展示やそこに集まる人を見ていると、やはり、商売上都合の良いDCI 4K(4096×2160)に人は集まっており、政府の思惑はともかくとして、実際につくり手側に広がるのは広く世界向けのコンテンツをつくることのできるDCI 4Kの環境であるようだ。まずは放送規格ありきで日韓両国ともにUHD放送を推し進めてしまっているが、それがコンテンツ産業との規格差を生み、結果的にコンテンツ産業の主要納品先がテレビでなくなりつつあるのではないか、という思いを覚えた。
NABでもそうであったが、このKOBAにおいてもネット放送機材なども取り扱っている。どうも、我々は単に高画質時代という時代の境目にいるだけではなく、テレビから次へ、という時代の境目を見つつあるのではないか、そんな気さえもしてくるKOBA2014であったのだ。