オタク 手塚一佳の2014 Cine Gear Expo Los Angelesレポート


 6月5日〜8日まで開催された2014 Cine Gear Expo Los Angeles(以下Cine Gear)は、毎年6月にハリウッドで開催される映画機材のイベントだ。単に機材が集まるというだけでなく、世界中から映画関係者が集まる、年に1度のお祭りのようなものでもある。今回は、年に1度の熱気に包まれるCine Gear会場からのレポートをお送りしたい。

2014 Cine Gear Expo Los Angeles

 Cine Gearの会場は、例年、Paramauntのスタジオを4分の1ほど借り切って行われる。テレビ映像系に比べると決して広くはない会場のうえ、各ブースも幼稚園の運動会の本部テント程度のささやかなものではあるが、元々映画関係者は世界中でもそんなに人数がいるわけではないうえ、実際に使われる機材も限られるため、このサイズでも必要充分な展示だといえる。

 一時期はこのCine Gearも不況の影響で規模を縮小していたが、ここ2、3年はまた盛り上がりを取り戻し、映画産業に不可欠なイベントの1つとなっている。特に、RAWやLogなどのデジタルネガが盛り上がってからは機材の重要性が増し、多くの注目を集めるイベントとなっているようだ。また、演出方法も大きく変え、実際のセットに夜遅くまで展示を行うことで、昼間の撮影からナイトショットまでの実演を可能としたのも、昨今の盛り上がりの大きな理由だろう。

 日が暮れればアルコールも登場し、お祭り的要素の強い展開となる。とにもかくにも映画関係者には楽しいイベントだ。

文化祭的なテントブース

 スタジオ敷地に並ぶテントブースでは、さまざまなメーカーが思い思いの展示を行っていた。狭い世界のため、売らんかなというよりも「まあ1度見ていってくれよ!」という意識の展示が多く、他のイベントにあるような必死の商売というよりも、成果発表的な文化祭的な展示となっているところが多いのもこのCine Gearの特徴だ(もちろんその隙間に、必死に売り込む新興系ブースが混じっていたりするのもまた文化祭的だ)。

 特にRIG関連やクレーン、レンタル向きのハイエンドレンズなどは実際に触ってみて初めてその良さがわかるものなので、積極的に来場者に機材を触らせるように展示を行っていた。他の展示会では、どちらかというと個々人に機材に触れて貰うというよりも、人を集めて説明を口八丁手八丁で、という場面が多いため、一人一人に触らせようとするCine Gearのやり方は、大変にありがたいものだ。

 実際にここで触れることで、この後の機材導入計画やレンタル計画を立てるという制作者も多いだろう。こうしたやり方は、のどかではあるが理に適った展示方法なのである。

富士フイルムブース〜携帯型LUT Box、IS-100による簡易カラーグレーディング!

 テント展示ばかりがCine Gearではない。富士フイルムブースは、一般的なテントではなく、セットの街の中の建物を1つ借り切って、その中で展示が行われていた。

 なかでも、IS-100の展示は、実機でリアルタイムでのLUTオンオフの切り替えや、IS-100の機能を使ったLUTをつくっての簡易グレーディングなども示していて、今後の可能性を感じさせるものであった。IS-100は、ただのLUTボックスではなく、アプリを使って簡単なカラー調整やLUTの現場制作を行えるようにしたことで、さまざまな応用の利く大きく飛躍した機材となっているのが特徴だ。後処理工程においても、IS-100でつくったLUTを元にグレーディングをスタートすれば、相当に手間が省けるだろう。

 また、上位機種IS-miniの展示では、Deluxe社のアプリ、ColorStreamと連携して、iPadで実際の映画でのカラーグレーディング例を示していたのは圧巻であった。

 

パナソニックブース〜4Kシネマカメラの本命、VARICAM35

 ブース展示のなかでも精密機器やカメラなどは、さすがに吹き晒しのテントに展示というわけにもいかない。そうした機材はスタジオ建物を2つほど開放し、その中での展示となっていた。

 そうした大型ブースの中でも、映画産業に再参入したパナソニックからは、本気のシネマカメラ、VARICAM35が大きな注目を集めていた。特に同カメラは、インカメラカラーグレーディングによって後処理工程でのカラーグレーディングに用いるベースのLUTを各カットごとに記録することができ、主流となりつつあるオンセットグレーディングの流れを先取りしたものとなっている。

 NAB2014の発表で注目を集めた同カメラであったが、やはりCine Gearは映画専門のイベントだけあって、VARICAM35が得意とする後処理周りや、CODEX社のレコーダーとの連携に質問が集中していたようだ。

AjAブース〜CIONの開発順調

 屋内展示では、もう1つ、AjA Video Systemが2014 NAB Showで発表した初の同社製シネマカメラCIONの実機が2機実働展示され、大きな話題をさらっていた。

 NAB SHOW2014時には、まだ、なんとかそれっぽい画像が出るという程度の完成度だった同カメラではあったが、このCine Gearにおいてはついにモニターへのリアルタイム出力も実現し、その美麗な画質を誇示していた。また、本体の付属モニターも実用レベルとなり、いよいよ発売が近いことを感じさせるものであった。ただし肝心の発売日はまだ未定で、この夏中、という曖昧な表現のままであった。

ATOMOSブース〜SHOGUNがフル4K対応のビッグニュース!

 同じく屋内展示のATOMOSブースでは、衝撃のニュースが発表されていた。
 発売日も9月と確定した同社製4KレコーダーSHOGUNが、なんとフル4K(4096×2160 30p上限)にも対応するという発表があったのだ!

 パナソニック製の4KカメラDMC-GH4(AG-GH4)がフル4K出力しているため、同カメラへの対応で仕様変更を決めたのだという。これにより、HDMIケーブル1本でGH4からSHOGUNへの4K収録ができることになり、10ビット4:2:2 ProResでの収録の道が開かれることになる。ローバジェット現場を一気に塗り替える映画制作機材の誕生といえる(両機種はHDMI接続できるため、GH4の業務ユニット、YAGHアダプタ無しでの接続も可能だ。もっとも、電源も内蔵バッテリーに限定されるし、バランス音声入力もできないため、現実的には同ユニットが無いと苦しい場面も多いだろう)。

 SHOGUNはRAW入力にも対応し、CinemaDNG 4K RAW収録にも対応しているが、GH4側の出力上限が10ビット4:2:2であるため、GH4との連携ではProRes422でのフル4K収録が現実的だろう。CinemaDNG 4K RAWは、キヤノン Cinema EOS C500やソニーFS-700など、4K内部レコーダーを持たない上位機種との連携用になるだろう。とはいえ、4K RAWファイルは膨大であり、GH4の価格帯レベルのユーザー環境でこれを扱うのは2014年6月の現状ではなかなか困難だ(そもそもメディア代が膨大すぎてそれ自体GH4の運用価格帯には似合わない)。そう考えるとSHOGUNの、10ビットProRes422でのフル4K対応が可能だというのは当面の運用を考慮すれば非常に考え抜かれた仕様だといえる。

 また、この発表により、前述の通りSHOGUN上位機種への対応が進んだということであり、若干1995ドルのレコーダーが一気にハイエンドレコーディング市場に打って出ることになる。同機種の発売によって、市場の大きな変化が予想される。

興和ブース〜ついにPROMINAR Cinema lens 復活!

 興和から、ついにPROMINAR Cinema lensが復活するという話はこの春から話題となっていたが、ついにその試作実機が展示され、参加者が実際にレンズに触れることができるようになっていた。

 展示されていたのは、KOWA NEW PROMINAR m4/3のうち、8.5mm、12mm、25mmの3本。それぞれm4/3のスチル撮影時には17mm、24mm、50mm、GH4の4K撮影時には、21.5mm、30mm、62.5mmのフルサイズ換算になる。KOWA PROMINARの名前で連想するアナモルフィックレンズではないが、間を開けた復活にしては優れたレンズといえるだろう。

 展示されていたのはまだまだ試作用の未完成品で、たとえば、若干マウントの取り付けが甘かったり、絞りリングとフォーカスギアが逆に取り付けられているなどという笑えるミスもあったのだが、まあそれはご愛敬。むしろ、このCine Gearに合わせて良くもここまで完成させてきたな、というのが本当の気持ちだ。

 筆者の個人サイトで、この、会場展示のレンズをお借りして撮影した映像も公開しているので、是非ともご覧頂きたい。前述の通り、無理矢理にお借りしたまだまだ試作段階の未完成レンズのうえ、GH4による筆者のワンマン撮影のため、画質の荒さなどはご勘弁頂けると幸いだ。

映像1 KOWA NEW PROMINAR m4/3 25mm の室内テスト映像

像2 KOWA NEW PROMINAR m4/3 12mm の室内テスト映像

映像3 KOWA NEW PROMINAR m4/3 8.5mm の室内テスト映像 

映像4 KOWA NEW PROMINAR m4/3 8.5mm のナイトショットテスト映像 

 ナイトショットは暗所にさほど強くないGH4本体側の特性のため若干ノイジーでぼやけた印象だが、レンズがF2.8と明るいため、ISO1600のわりには頑張っていると思う。

 室内の静物撮影も、実は特にライティングを施していない。ホテルの室内照明に加えて窓からの自然光だけでこの表現を得ている。これは驚異的な表現力をも持つレンズだといえるだろう。

 レンズごとに3つのショットを同位置で撮ったので画角の特性も良くわかると思う。試作品にしては充分に性能が出ていると思う。正直、このレンズの表現力には度肝を抜かれた。とろっとした表現はハイエンドレンズにも負けていない色合いだ。特筆すべきはその歪みの少なさで、特に8.5mmでの歪みの少なさは非常に高いレベルにまとまっていると思う。

 マイクロフォーサーズ規格ということで、レンズの価格も一般的なシネマレンズに比べてそう高いものではないと思われる。おそらく、20万を切る価格帯での発売となるのではないだろうか。

 発売が楽しみなシネマレンズだといえるだろう。

夜間のライト展示は圧巻

 さて、こうしてCine Gear会場を回ってきたが、なんといってもこのイベント最大の特徴は、初日の開催が、午後2時から午後9時までという遅めの開催である点だろう。これはライティングやナイトショットの実演をするための時間設定であり、これこそが最近のCine Gearの醍醐味となっている。

 Paramountスタジオのニューヨークセットに照明が焚かれ数々の機材が実働している様は、誰もが実際の撮影風景を想像せざるを得ない。そうした雰囲気のもと、アルコールも振る舞われ、Cine Gearは深夜まで大きな盛り上がりを見せた。こうなるともはや展示者も参加者もない。みんな入り交じって映画談義に花が咲く。

 こうした交流会としての役割もCine Gearは果たしている。この風景を見ると、Cine Gearが映画産業に果たす役割の大きさを思い知るのだ。


手塚 一佳

About 手塚 一佳

 1973年3月生まれ。クリエイター集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。東京農業大学農学部卒、日本大学大学院中退、小沢一郎政治塾8期卒、RYAショアベースヨットマスター、MENSA会員。学生時代からシナリオライター兼CG作家としてゲームやアニメ等でアルバイトを始め、1999年2月に仲間と共に法人化。アニメは育ってきたスタッフに任せ、企画・シナリオの他、映画エフェクトや合成などを主な業務としている。副業で鍛冶作刀修行中!

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