Avidリブランディング詳報〜Avid Media Composer|Software Ver.8.1と新ライセンスオプション
Avid Media Composerは1987年にプロトタイプの「Avid1」として発表され、89年にMedia Composerという名称で一般公開された長い歴史を持つ製品である。登場から27年目に入った同製品はノンリニア製品として最も息が長いタイトルであるとともに、ユーザーの環境変化に対応して優れたユーザビリティを維持し続けている希有なソフトウェアでもある。
今回は先月リリースされたVer.8.1の最新機能を紹介するとともに、NAB2014でリリースされた新しいライセンス形態やクラウドオプションについておさらいするべく、同社にお話を伺った。
「Avidの長い歴史の中でMedia Composerから離れたユーザーもいますが、最近はまた戻ってきている方が増えています。ユーザーの中にはソフトウェアを2〜3つ兼用している方もいて、時代によって使い方が変わってきているようです。特にMedia Composerを評価し直してくれた方は、弊社が映像編集に関する製品をずっと継続して提供していることに信頼を寄せてくれたのだろうと思っています。またロングセラーであることに加えて、Media Composerは発売当初から、Mac版/Windows版の両方を継続しているのも特徴です(光岡氏)」
これまでは「Media Composer 7」など製品名にバージョンを付けて呼ばれていたが、2014 NAB Showの発表で「Media Composer | Software」という名称にリブランディングされた。このときリリースされた一番のトピックはライセンス形態の変更である。期間契約型のサブスクリプションライセンスが追加され、それと同時にバージョンアップに関しても、今後はまとまったメジャーバージョンアップのキットがリリースされるのではなく、マイナーバージョンの機能追加が順次リリースされることになった。
またNewsCutterがオプション化し、Media Composerにインストールできるようになった。Ver.8では、このほかに目立った機能追加はなかったが、最新のVer.8.1では多くの機能追加が行われている。
新しいライセンス形態について
Media Composerのライセンスオプションは大きく3つに分かれる。購入型の永続ライセンスと期間契約型のサブスクリプション、大規模プロダクション向けのフローティングライセンスの3つである。変容するユーザーの環境に合わせて、選択肢を増やした格好だ。
■永続ライセンス
有効期限なく使用できるほか、購入と同時にソフトウェアのアップデート/アップグレードを保証する「Avidサポート」が1年間付与される。サポート中に新機能がリリースされたときには、いつでもバージョンアップが可能だ。価格は¥13万9000(税別)。これまではバージョンアップキットを販売していたところを、「Avidサポート」というサービスの形で提供する仕組みに変えたことで、つねに最新バージョンを維持できるようになった。
なお、古いバージョンの永続ライセンスを使用中のユーザー向けに、2014年内は「Avidサポート」を3万円で購入できるキャンペーンも行っている。今後、永続ライセンスのアップグレードを考えている方はAvidサポートへの年内加入を検討するとよいだろう。
■サブスクリプションライセンス
契約型のライセンス方式で年単位と月単位の2種類がラインナップされているが、日本国内ではいまのところ年単位のみ販売されている。価格は1年間で¥6万4200(税別)、2年間で¥12万8000(税別)、3年間で¥19万2600。
期間中はずっとAvidサポートの対象となるため、常に最新の状態で使用できる。ポスプロのインフラとして設置されるMedia Composerはもっぱら永続ライセンスが利用されているが、期間の限られたプロジェクトの場合はサブスクリプションを利用することで運用コストを最小限に抑えられる。Media Composer | Symphonyオプション、Sorenson Squeeze Lite Boris Continuum Complete Liteなど、永続ライセンスには付属しない製品が同梱されるのも特徴。
■フローティングライセンス
大規模なプロダクションや教育機関向けにラインナップされている方式で、1つのシステムIDで施設全体の複数のMedia Composerライセンスを管理できる共有ライセンスパッケージである。ライセンス数は20シートと50シートが用意されており、Windowsベースのサーバーに管理ソフトウェアをインストールしてライセンスを管理する。ユーザーに対してライセンスを許可し、設定した使用期間が終了するとサーバーに返却されるしくみだ。
ラップトップの場合は接続するPCのマシーンIDをサーバーに登録しておくことで、そのマシーンに対してライセンスを許可することができる。たとえば教育機関で学校所有のラップトップとカメラを学生に貸し出して、期間限定で映像制作に利用してもらうなどの使い方も可能となる。
なお、60台や100台など、シート数以上のPCにライセンスを自由に割り振れるメリットがあるため、他のライセンス形態よりも単価は割高である。
■アカデミック版
かなりお買い得なアカデミック価格も用意されている。金額を聞いて驚いてしまったのだが、学生の場合は通常ライセンスが¥3万1600(税別)。学生向けのサブスクリプションは年間¥1万2800(税別)で使用できる。
Avidでは「Avidサポート」によってバージョンアップの即時対応を実現するとともに、ユーザーの幅広い使用環境にマッチする方式としてサブスクリプションの有効利用も推し進めている。
「プロダクション向けには、短期プロジェクトでコストを最小限に抑えて編集環境を組めるサブスクリプションをぜひ活用していただきたいです。月単位の国内販売も準備中ですので、リリースされればさらに選択肢が増えることになります。まだまだライセンスに関する情報がユーザーに行き渡ってない部分があるので、制作費に見合ったライセンスが選べることをどんどんアピールしていきたいですね(光岡氏)」
Media Composer | Software Ver.8.1
Ver.8.1では、かゆいところに手が届く細かい機能追加が行われている。主な内容を以下に紹介する。なお、機能の最新情報は、同社サイトにもアップされるので、こちらもご確認いただきたい(http://www.avid.com/JP/products/media-composer/ features)。
■ミュートクリップ
個別のビデオ/オーディオクリップを選択して右クリックメニューで「Mute Clips」を選択すると、そのクリップだけミュートできる。
■トラックミュート
これまでオーディオに対してのみ適用できたトラックミュート機能が、ビデオトラックにも適用できるようになった。なお、レンダリング時にはミュートしているトラックはレンダリングしない。また、レンダリング後にミュートしてもレンダリングは残ったまま。
■トリムローラー
Shiftを押すだけで、トラックの隣接箇所にトリムローラーの追加削除が行える。
■トリムの終了点インジケーター
トリム処理をする際に、クリップの長さの限界点がタイムラインに括弧マークとして表示されるため、トリムが可能な範囲を容易に判断できる。
■セグメントフィラー
セグメントのフィラーを選択しない設定が可能となった。
■セグメントのドラッグ&ペーストコピー
Alt押しながらドラッグ&ペーストでトラックをコピーできる。
■DPX連番ファイルのインポート
新しいAvid Image Sequencerプラグインを用いてトランスコードせずにDPXの連番ファイルを読み込めるようになった。また、これまでのインポートは連番ファイルをすべて選択する必要があったが、先頭のファイルだけ選べばまとめてインポートしてくれる。
■フレキシブルなオーディオミックスダウン
オーディオトラックを自由に選択して、どのチャンネルにまとめるかを選んでミックスダウンできる。
■タイトルツールの強化
タイトルを配置する際に、1アクションでタイムライン上のIN/OUT間に配置することができる。
■Export AMA
AMAを取り込むだけでなく、書き出しも強化。DNxHD(MXF OP1a)にも対応。
■Simplified AAF
編集後のシーケンスをAAFでエクスポートして送出機に送る際には、編集点やエフェクトの情報が不要の場合がある。新しいAAFでは選択したトラックをフラットに1本化し、それを参照するAAFを書き出せる。シンプルな書き出しができるため、送出機との互換がとりやすくなる。
■AMIRAのカラーマネージメントをサポート
埋め込まれたARRIメタデータから自動的に色変換を行って、ARRI AMIRA素材を直接編集することができる。
■Media Composer | Symphony Optionでソースとプログラムのセグメントのカラー・コレクションを統合
異なるシーケンスでSymphonyオプションを用いてカラーコレクトした際に、同一クリップを使っていながら異なるカラーコレクトを適用してしまったときなどにマージ可能。ルックスを統一しなければならないときに、パラメーターを一致させることができる。
■64ビットAAXオーディオプラグインに対応
ProToolsのオーディオプラグインはすべてAAXになっているが、Media Composerも同様に64ビットのAAXに対応した。RTASがAAXに変わったものもあるので、これまでRTASで作っていたシーケンスは自動でAAXに変換してくれる。サードパーティ製のプラグインでAAXに対応していない場合には自動変換できないが、最近はほぼ出揃っているとのこと。
Media Composer | Cloud
ちかごろ「クラウド」がキーワードとしてフューチャーされているが、Avidはクラウドで運用できる製品を2年前から提供している。リリース当時はInterplay Sphereの名称で登場したクラウド機能オプションは、2014 NAB Showのリブランディングに合わせてMedia Composer | Cloudに名称変更された。Media Composer | Cloudは、クラウドで本局地にあるISISサーバーにリーチすることで素材を取り寄せることもできるし外部で作業したものをアップロードすることもできる。
拠点となるISISサーバーはメディアの入っているストレージそのものである。たとえば大阪のMedia Composer | Cloudから東京のISISサーバーにアクセスして、編集内容や素材に対してのメタ情報を共有することなどが可能である。クラウドでは画はプロキシになるが、外部から素材にアクセスしていつも通りの作業を行えるメリットは大きい。遠隔地にいるエディターに作業してもらったり、仕上がりをプレビューする際などに利用できる。
そして、メタ情報を一括してアセット管理しているのが、サーバーにインストールされているInterplay | Productionである。Interplayがアクティブになっていると、Media ComposerにInterplayのログインウィンドウが出てきて、クラウド環境にアクセスする状態にするかどうかを選択することが可能となる。
「ポスプロではオフライン編集するために軽いデータをハードディスクにコピーするだけでなく、ネットでやりとりすることも増えていると聞きます。データのやりとりがネックになっていて、ワークフローの部分を改善しなくてはならない場合には、サーバーアプリケーションを初め、ストレージやアセット管理に至るまで全てを一貫して提供できるAvidの製品ラインナップは強みになるでしょう。また、クラウドシステムはユーザーがどういうビジネスで利用するかによって使い方をアレンジできますので、お客様のニーズに合わせて選んでいただけて、他社製の組み合わせよりも安心で導入もスムーズなことはメリットだと思っています(光岡氏)」
クラウド環境で「Media Central | UX」というアプリを使えば、Interplay | Productionで管理している素材をWebブラウザ(ChromeかSafari)で確認したり、簡易編集することもできる。完パケをプロデューサーやクライアントにチェックしてもらったり、デイリーやラッシュの確認用にも活用できるだろう。クリップの色がおかしいとか、音をなんとかしてほしいという要望があれば、マーカーを打って日本語でコメントを残すこともできる。
「Media Central | UXはMedia Composerと同様に世界中のどこからでもアクセスできます。ISISサーバーに対して、Media Composer | Cloudはヘビークライアント、Media Central | UXはWebクライアントやモバイルクライアントという位置づけです。モバイルクライアントとしては、iPadで利用できますし、現在Android用のアプリも準備しています(三橋氏)」
Avidの信頼性とは
今回のリブランディングはこれまで培ってきたAvid製品の特徴を、将来的にも余さず活用していこうとする強い姿勢が感じられる。
「ヘビーユーザーの中には、新しいバージョンが出ると『15年前のプロジェクトが開けたぞ』とコメントする猛者がいたりします。新バージョンで作ったプロジェクトを下位バージョンで開くことができることもありますし、そういったあまり表に出てこない互換性の高さも評価されている点だと思います(西岡氏)」
「1つの企業でこれだけ幅広い製品を扱っているところはありません。そういう意味では、製品の使い方に関して可能性は無限大なわけですが、ビデオ編集を主軸に考えた場合、NAB2014で発表したリブランディングが大きなニュースでしたので、ぜひこれを機会に知っていただきたいと思います(光岡氏)」
「Avidは今後も制作全体を見渡せる製品を作っていきますので、軸となるMedia Composer | Softwareに信頼を置いていていただければと思います。すでに4Kにも対応していますし、時代に則してユーザーのニーズに応えられる製品を提供していきます(三橋氏)」
4K対応への移行もあって、編集環境の見直しを考えているユーザーも多いことだろう。Media Composerは30日間の無償トライアルも用意されている。ここまで紹介してきたライセンスやクラウド活用を検討したい方は、まずは最新バージョンを試用して感触を掴んでみてはいかがだろうか。